久しぶりに恵比寿

機嫌よく朝起きて、午後から明日で終了する東京都写真美術館の「私のいる場所」展。先日、「転換期の作法」展を見に行ったとき、ビデオ上映がいくつもあって全然時間が足りなかった反省から、3時半には現地に着くように早めに出かける。ビデオ上映なんてハイカラな展示方法が始まったのは、いつ頃だったのかなあ。それとも昔は、現代美術の展覧会には行かなかったのかしら。

その「転換期の作法」展を見た後、MOTミュージアム・ショップに立ち寄って何気なく手にした写真集が、塩田千春の『Raum』だった。火をかけられて煙を上げるピアノの映像。多分、これからしばらくの間、私の生涯で一番衝撃を受けた写真は、この一枚ということになるだろう。恐怖、残酷さと美しさ。塩田さんは、9歳のとき、近所で火事(放火だった)を体験している。後日焼け落ちた家を見に行った彼女は、部屋の片隅に、ピアノの残骸を発見する。そして、火事が起きたとき、彼女の目を覚まさせたのは、燃えて爆ぜる木材の音だった。

It had been the sound of burning wood that had woken me up and at this moment the piano had lost its sound... The burnt down piano was more beautiful than before. And it seemed to have become stronger.

The piano loosed*1 its voice, the painter does not paint any more, the musician stops making music. They loose their function, but not their beauty. - They even become more beautiful.

前置きが長くなったけれど、その塩田千春の写真が見られるということがわかって、苦手な恵比寿まで出向いたのだった。塩田さんの今回の展示は、一族の顔写真をひたすら狭い部屋一杯に張り巡らせたもの。今「私のいる場所」を確認するよすがとなる記憶。塩田さんの展示でなければすぐに通り過ぎそうだが、一応、それぞれの顔と表情を一枚ずつ確認する。

テーマがそういうテーマだから仕方がないが、基本的には、癒されない感じの写真が多い。そして、みんな考えていることが難しい。でも、現代音楽と一緒で退屈しない。はっとして、でも次の瞬間になじんでいる。「そうそう、こんな感じ」と思う。

3階の展示室から地下1階に下りていくのだが、最後のみうらじゅんの『アイノカテゴリー』には笑った。写真もだが、むしろキャプションの妙。

カタログと、塩田さんの『Raum』、『In-between 2 港千尋 フランス、ギリシャ』『In-between 9 米田知子 ハンガリー、エストニア』をミュージアムショップで購入。

そういえば、恵比寿三越をちゃんと見たことがなかったと思って、一通り見て回る。「群言堂」の服は、生地がいい感じだった。ちょっとお茶して、中目黒まで歩くことにする。「パシフィックファニチャーサービス」「KAPITAL」をひやかして、防衛研究所の裏手をぶらぶら歩き、「TOLL FREE」をちょっと覘いて帰宅。

次はまたご近所で、「カルティエ現代美術財団コレクション展」かな。

*1:これは併記しているドイツ語からするとlosesではないかと。