ごくまれに人様から仕事を紹介していただくことがあっても「その業務であれば、私以外の人にお任せした方が依頼人のためです」とお断りしてばかりだったのを、今回、「何だか変わった依頼なのよ。あまり聞いたこともないような内容だし、どうしましょうか」と紹介者の方が話されるのを聞いていてぴんとくるものがあり、「いえ、やらせていただきます」と即答。

電話で依頼人と話してみると、思ったとおり、IT技術者(正確にはセールス・エンジニアだそうです)。こちらも相手も、PCでキーボードを叩きながらの会話になり、その場でファイルをやり取りして、あっという間に情報交換は終了。いろんな意味で、楽だった。「そうか。こういう依頼は「わけのわからない依頼」に分類されるのか」と、改めて考えさせられる。

夕方からコンサートに行くだけの予定が、急に忙しくなる。髪を切って、靴だけは新調しよう(新年会もぼさぼさ頭で出席したくせに)。依頼人が参考にしたという本も、どこかで入手しなくては。早速美容室に電話を入れてみるも、ほとんど定休日以外のお休みはないはずなのに、またしてもいつもの美容師さんと休日がバッティング。これで3回目?今日はどうしても延期できないので、助手の方に「他の美容師さんで一押しの人がいたら教えて」と電話口に呼び出して聞いてみたけれど、周囲に人がいる状況じゃ話せないよね。結局、ここ6年で初めて、これまで一言もしゃべったことのない美容師さんに、髪を切っていただく。いろいろ個人差はあるけれど、上手に切っていただいた。助手の須永さん、近々カットデビューだとか。ほぼ4年の修業が必要だという厳しいお店で、よく頑張ったなあ。そのうち切ってもらおう(そしてびしばし文句を言おう)。

ベルコモンズまで移動して、久しぶりにフェリーラで靴を購入。正月3日からバーゲンだったから、もうバーゲン商品は残っていないと思っていたら、「多少キズあり」の商品がいくらか。どうせがしがし履きつぶすのだから、多少のキズなんて、あってなきが如し。売れ筋から数えて二番手、三番手くらいのショートブーツ二足を、プロパーで購入したときの一足分の値段で購入。助かった。聞いたらここ、修理もやってくれるそうだ。ラバーの付け替え(付け足し?)で一足5,000円くらいだそう。

八重洲ブックセンターで本をピックアップしている暇もなく、上野の東京文化会館に移動して「佐々木素 山内知子 ピアノデュオリサイタル」。ここまで来て、いまさら途中で抜けるというのは全く気が進まないので、10時まで開いている本屋さんということで、銀座のブックファーストジュンク堂に在庫を確認したところ、ジュンク堂に在庫があるという(いつも頼りになる)。ようやく安心して、7割がた埋まった小ホールに腰を落ち着ける。

ちょうど、一部が終わったところに入ったから、フランクとタイユフェール、ドビュッシーは聴けなかった。この日は「19世紀末から20世紀前半のパリで活躍した作曲家の夕べ」ということで、二部はマスネ、シャミナード、カサドシュをそれぞれ何曲か。ほとんど聴いたことのない人たち。シャミナードも女性ということで、一見、愛らしい曲が続く。男性デュオでこのレパートリーは、ちょっとあり得ない感じ。しかし、この時代の曲として、特に異端を選んだわけではないだろうから、つまり、ベル・エポックという時代には、パリでは始終、こんなような音が鳴っていたわけだ。音もおしゃれだったのねえ。

お二人の連弾は、長らく連れ添った夫婦のように、ぴったり。音だけ聴いていると、二台で弾いていることを忘れてしまう。アイスダンスのペアでも、ここまでのシンクロは無理だろうってくらい。なんだかアイスダンスを連想したせいか、速いテンポの曲では、スポーツ競技的なスリルも味わう。例えばシャミナードのスケルツェッティーノでは、二台のピアノが双方で奏でる高速のトリルの連続が、「二台で弾いていること」を強迫的に常時喚起するので、聴いている方は、「いつどちらかがとちるのか、呼吸が乱れるのか、いつまで続くのか」と、気がつくと手に汗を握っている。やっと終わったときの安堵、走り終えた歓喜、そして拍手。山内先生、声こそ出していなかったけれど、大笑いしてましたね。

モデル並みの容姿を奇跡的に保っている山内先生、この夜は終始笑顔。合唱の伴奏のときにはあまり見せない「主役の笑み」だ。一音一音を、まさしくハンマーを叩くようにくっきり打鍵する彼女の音を聴くたびに、私は、彼女の指を思い起こさずにいられない。いつだか、NHKの番組で、冒頭に彼女の指が写ったとき、即座にそれが山内先生の指だとわかったほどだ。木下牧子の、どんな叙情的な曲を奏でているときでも、ぐずぐずと情緒に流れないその音は、私にとっては、彼女の厳しい性格から来ているような気がして、ちょっと気が抜けなかった。結婚しても、齢を重ねても、外見までもが少女のまま。考えてみたら、彼女のリサイタルを聴くのはこれが初めてだ。いろいろなことを、どんな風に考えているのか、聞いてみたくなった。

ジュンク堂に寄って、結局、仕事関係の本以外にマンガ三冊も一緒に購入してしまい、池袋駅ベッカーズでちょっと食べて飲んで、11時過ぎに帰宅。以前であれば、仕事の前日は徹夜していたところを(寝過ごすから)、ちょっと本を読んで寝てしまった。5時に起きられると思えば、安心して眠れる。それでも、たかだか12時に眠いと、ちょっと情けない。