富士山登山(旅行編3日目:帰京)

めちゃめちゃ疲れているはずなのに、4時半になぜか目が覚める。幕末の武士の夢を見ていた。

もう一度寝なおして、7時に起床。筋肉痛少々、尾てい骨は相変わらずちょっと痛い。気分は爽快。少し荷物の整理をして、8時に朝食に下りる。ちょっと隣のホールを覗いたら、いかにも練習しやすそうな、こじんまりして感じのよいホールだった。

朝食は、緑に囲まれた、食堂の外のテラスで。ヨーグルト、ジュース、焼きたてのパン、サラダに卵と定番のメニューが並ぶ。野菜もパンも美味しい。食後のコーヒーを飲んでいると、青森から来たという、りんごジュースの生産者が、ジュースを売りにきた。まだ朝の9時前なのに、働き者の人たちである。女主人が「毎年来てくれるから、今年は買ってみましょうか」と購入を決めると、私以外の3人の宿泊客も、1本、2本と購入する。少しのお金を惜しんで私は買わなかったけれど、後から考えると、この後、知り合いの別荘を訪ねるのだから、買っておけばよかったのだった。

宿泊者の方と女主人にお暇乞いをして、10時前にチェックアウト。今回の、もうひとつの目的地に向けて出発する。東京の住まいの最寄り駅のそばに「伊勢陶」さんという陶器屋さんがあって、こちらの女主人とは、引っ越してきたとき以来のおつきあい。益体も無いおしゃべりを嫌な顔もせず聞いてくださるので、たまに立ち寄っては長居させていただく。「伊勢陶」さんは毎年、夏の間は、河口湖の別荘にお店ごと移動する慣わしで、今年もその旨お知らせを頂いていた。数年前に一度訪れたときは、知らない方の車に乗せていただいての訪問だったけれど、そういえばもう、一人でも行けるのだった。

そもそも、今回の富士登山自体、最初は、この別荘訪問とセットになる目的地として考えついたもの(事が大きかっただけに比重は逆転してしまったけれど)。登山も片付いたし、小一時間ドライブを楽しんで、女主人とちょっとおしゃべりして、感じのいいカップぐい呑みがあれば、旅の記念に購入しよう、と機嫌よく考える。「伊勢陶」さんに電話をすると、ここしばらくご無沙汰していたのでちょっと驚いてらしたが、どうぞいらしてください、とのこと。

昨日は河口湖まで富士五湖道路で移動したが、今日は地味に、下道を行くことにする。ところが、これが結構渋滞していて、思いのほか時間を取られてしまった。感じのいいケーキ屋さんでもあればお土産を買うつもりが、沿道にそれらしき店も見当たらない。準地元の方に「信玄餅」ってのもなあ、と思っている間に、店らしきものは何もなくなってしまった。

前回の訪問時には、人に連れられてきたこともあって、地理的なことはまったくわからなかったけれど、今日地図を確認してみると、別荘地は、スバルラインの入り口のすぐ傍に位置している。マイカー規制時の駐車場をいくつか通り抜け、自動車博物館、ゴルフ場の脇を抜けて、別荘地に入る。ご主人に入り口まで迎えにきていただいて、目指すお宅に着いたのは、もう11:00を回った頃だった。

昼間の光で改めて見ると、外から見ても洒落た別荘だった。初めて来た場所のように、足を踏み入れる。

女主人と、久しぶりのご挨拶。なし崩しでお茶をいただきながらおしゃべり。「今年は別荘地に人が少なくて。暑いし」とのこと。そういえば、昨日のペンションの女主人も、同じようなことをおっしゃっていた。こちらはまあ、今回の旅の話。「この間免許を取ったって書いてらしたばかりなのに、一人でここまでいらっしゃるなんてすごいわねえ」と、存分にほめていただく。

今回の旅行は、しゃべりっぱなしでほめられっぱなし。もし男だったら、ほめられるほどのことでもないと思うんだけど、と毎度のことながら考える。「男でもやれない」と言わせたいもんだ、という願望は、いつも底のほうにある(悪い癖だ)。

お茶とコーヒーにお菓子にそのお代わりまでしたところで、おみやげを物色。とってもいい感じの作家さんが一人いたのだけれど、お皿しかもう在庫がなくて、料理をしない当方としては迷うところ。どうしたものか考えていたら、そこここに置かれた小さな盆栽に目が留まる。植物は、枯らしてしまうから買わない主義。でも、今の自分の体内は、珍しく緑や青との親和性が高い。ここは買っておくことにする。枯れそうになったら、ちゃんとメンテをすることにしよう。

13:30過ぎ、お客様が見えたのを潮に、そろそろ帰ることにする。思いのほか長く過ごしてしまった。

さて、どのルートで帰るか。御殿場から箱根に抜ける当初の予定は放棄。山中湖と河口湖、さほど離れていないのに、山中湖は東名に近く、河口湖は中央高速に近い。でも、前回も前々回も中央高速は通ったので、多少飽き気味。御殿場近くまで走って、246をひたすら東京まで、という手もあるが。結局、山中湖から「道志みち」という山道を通ることにする。

渋滞した道を山中湖までのろのろ進み、山中湖の西岸を通り抜けて「道志みち」へ。山道というのはいずこも同じ。うねうね一車線がひたすら続く。遅い車を先頭に、さほど長くない数珠が繋がる。先頭にさえならなければ気楽なもんだが、先頭になっちゃうと心臓に悪い。のんびり走る間に、カーブを安定して曲がる練習を試みるが、カーブが3つも続くと、体を持っていかれるこの下手さ。回しすぎなのかなあ。いや、戻しが下手なのか。どうやって持ち手を交差させるのがいいのか、いまだ不明。

日差しがきつい。昨日の日焼けに加えて、今日新たに焼き色が重ねづけされつつあるのが、実感としてわかる。山道の割に清涼感はなく、長い道を走った感覚だけが残った。厚木から東名高速に入る。渋滞。どこぞの料金所で、ひやりとすること一度。レンタカーはETCが付いていないので、「一般」の方に進んだまではよかったが、信号が赤なのに気付いて隣の車線に移動。というところで、もともとその車線に向かっていた車にぶつけそうになってしまった。とっさにブレーキを踏んだので、間一髪のところでぶつからずに済んだ。相手の女性ドライバーは、特ににらむでもなく苦情を言うでもなく「ぶつかってないわよね」的な視線を走らせた後、さっさと行ってしまった。昔、レース帰りにツアーバスに乗っていてぶつけられたことがあって、そのぶつけられ方は、まさにこれと同じだったのではないかと思い当たる。「料金所前での車線変更に注意」と、心のメモに書いておく。「突発事態が起こったときも、周囲への目配りは忘れない」、これがなかなかできない。危ないよなあ。

池尻大橋に着いた時点で18:00。霞ヶ関まで高速で45分、246で30分、という表示を信じて下りてみたら、どこぞの表示板で、時間は逆転していた。まあ、仕方がない。それより、問題は給油である。「有楽町のあたりにスタンドがないので、最悪、山手線の内側ならどこでもいいですよ」とのことだったが、246沿いに全然スタンドがなくて参った。結局、一方通行を右往左往して、記憶にあった霞ヶ関経済産業省前のスタンドで入れてみたら、1リットル161円。7月のドライブのときは、確か141円くらいだったが...。もしかしたらハイオクだったんだろうか。

工事中の丸の内中通りを、携帯片手に、後ろからクラクションを鳴らされつつ誘導してもらい(結局失敗)、地下の駐車場に戻ったのは19:30。レンタカー会社の方、お待たせしてごめんなさいでした。また借りに行きますので、よろしくお願いします。平日の、スーツ姿のサラリーマンの中に、小汚いなりで放り出され、タクシーを呼び止めて乗り込む。長いこと東京を離れていたかのように、景色が知らない街のそれに見えた。

普通なら翌日には収まる風景のジャメヴュ化は、今回なかなか収まらなかった。(08/22更新)