揺れる梢、山の音

相変わらずおいしい朝ご飯を食べて、昼食用のおにぎりを用意していただき、今日は武甲山登山。横瀬浦山口に廻るのはいかにも面倒なので、ご主人に「この宿の近辺から登るルートはないでしょうか」と尋ねると「私らなら獣道をたどって、この裏から2時間で登れますけどねえ」。さすが。大持山、小持山、武甲山三山縦走も考えたけれど、ご主人は沈黙なさったまま「No」のサイン。結局、大神楽沢橋というところから林道経由で小持山に登り、余裕があればさらに武甲山に尾根伝いに登るルートに決定。

いったん大日如来堂にお参りし、昌安寺の納経印(秩父十三仏)もいただいて、徒歩で大神楽沢入口まで下る。10:00に大神楽沢バス停着。林道を延々と登り、終点の民家で道を尋ね、山道を登っていく。11:00くらいに分岐点に出る。「茶平」「たわの尾根」「武士平」の位置関係がよくわからず、右に行ったり左に行ったりして時間をつぶすが、真中の道でした。この時点で山専用の地図を持ってこなかったことを深く後悔する。街中ならシグマリオンの威力は絶大なのだけれど。

このまま行けば小持山の頂上だー、と頑張って登るが、結構ハードで、1時間後に着いたのは、山の頂上だけれど名前がわからない山。「すぐ小持山に着くよねー」楽勝だい、と無理にも楽観的に構えて登れども登れども、たどり着かない。結局、小持山に着いたのは2:00過ぎ。

小持山と武甲山の高さはそんなに違わないけれど、いったん下って延々と登っていく尾根伝いの道が、小持山からくっきり見える。「下って」「登る」。足がこの時点で不平を言う。スポーツの心得のある友人は、ひょいひょい先を登っていくけれど、たまの登山以外全くスポーツとは無縁の当方は、老婆のように半歩ずつ足を進めていく。武甲山山頂到着は15:30分。

山頂での食事もそこそこに、浦山口へ下山を始める。山頂では浦山口まで3時間の表示。地図では2時間弱。日暮れが18:00前だろうから、17:00過ぎには少なくとも林道に入っておきたい。あんなに上りがつらかったのに、1時間近く下っていると、ひざが笑う。足の裏も痛い。前日「法泉寺」で住職の奥方から話に聞いていた「はしりどころ(走野老)」が、やっと見つかる。岡野玲子の『陰陽師』で出てきた植物。実在してたのね。花は釣鐘型。淡い紫。可憐な花だけれど毒。『陰陽師』でも、分量間違えたら、頭がどこかで遊んでしまうと書いてありましたな。1時間ジャストで林道にはたどり着き、後はひざのご機嫌伺いをしながらだらだら下る。結局札所28番と鐘乳洞には間に合わず。すまん、友人。

帰りは、相変わらず特急に乗れず、普通列車と急行を乗り継いで帰ってくる。書きながらだとあっという間。山つつじや馬酔木、藤の花もきれいだったけれど、鉱物の講釈をしてくれる人からも話聞きたかったかも。あの淡いピンクの石は何?

秩父の街中から見上げると、無残な山肌をさらす武甲山。今日目にしたのは、あくまでも濃淡の緑が美しい武甲山でした。夕暮れ、山をわたる風の音。しばらくはリピート可能で、私を慰める記憶だ。

<追記>次の山行きには、熊よけの鈴を持っていくこと。