女流作家月間終了

先月はなんだかじっくり本を読める状態ではなかったので、未読の国産女流作家をひたすら読んだ。そこそこ名前の売れた作家さんは、1、2作は読んでおかないと、新刊memoでわけのわからないまま載せ続けないとならないので。

あとは角田光代森絵都を読めば大体終了だな(いやもう、誰も彼も読んだことがない)。角田光代という人、本という商品を作るのが上手な人に見える。どれもちょっと読みたくなる。とりあえず『対岸の彼女』と思ったら、区立図書館で未だに250人待ち。恐るべし。

とりあえず、こういう人たちを読みました。今月は「はてな系」(個人的な定義)で行く予定。

篠田真由美2作品目終了。龍のシリーズよりは読みやすい。ただ、昔の少女漫画を読んでいるような印象は変わらず。「温室」と「殺人」の相性は良い。

「幽霊とお話ができる」という設定は、どちらかというと敬遠する方なんだけど、イラスト坂田靖子、推薦文は西澤保彦とくれば読んでおいて損はない。外語のドイツ科出身だし(染井霊園登場!)。いい感じの書き手さん。畠中恵と同じで、定番化する予感。西澤さんの推薦文が内容をよく伝えているので転載。

結花ちゃんと読者(ぼく)らが憑いてるぞ 作家 西澤保彦氏も応援

被害者の霊と話ができる刑事...と聞いて、そんな安易な、だったらいつでも楽勝で事件解決じゃんかと早合点したそこのあなた。甘い!甘いです。幽霊は必ずそこにいてくれるとは限らない、犯人を目撃しているとも限らない。友好的であるとも限らないし、警察にほんとうのことを喋ってくれるとも限りません!
死者の無念、遺族の想いを一身に背負い、警視庁幽霊係は今日も往く。ストレスで胃はきりきり痛み、コーヒーだって飲めないやい!上司に酷使されても、洒落者や守銭奴の仲間に振り回されても、霊に身体をのっとられても、怪しい霊能者につけ狙われても、がんばれ、負けるな、柏木くん! 結花ちゃんと読者(ぼく)らが憑いてるぞ。

久しぶりに、恩田陸で読み応えのあるものを読んだ。才能と美貌に恵まれたサラブレッドの若手女優を軸に、野育ちで突然変異の天才、新境地開拓を願う脚本家等を配して、ある舞台作品が「始まるまで」を描く。少女漫画を読んでいる人なら『ガラスの仮面』のヒロインたちと『アラベスク』の時計工場で働く天才バレリーナを連想すると思う。それでも新境地。

恩田陸は、ゴシックな館に住む孤高のお嬢様についての話であれば、目をつぶっていても書けるくらい、内にバリエーションを持っているんだと思う。でも、多少飽きた。目先が変わるというそれだけの理由で構わないから、外に取材して書いてくれると、ぐっと読みでが増す。

それぞれの登場人物は、見事に一貫して同じ課題を抱えている。「自分の限界に挑戦する」という。その姿が、恩田陸に重なる(単純な見方でしょうが)。とか書くと、なんだか気難しい話のように聞こえるかもしれませんが、『ガラスの仮面』と同じくらいすらすら読めます。個人的には、同時期に読んでいた『阿部和重対談集』の中で「小説の型」というテーマが繰り返し現れたことと重なって面白かった。

あたしも、生きている間に、一度くらい「引き返せない場所」に自分の意思で足を踏み入れてみたいよ。

岸田るり子2作品目。とりあえず全冊終了。前作ではあまりはっきりわからなかったけれど、この人は、親子関係を書く人なんだな。そして、トリックにとてもこだわりがある。手堅い。「ナイフも毒も縄も」という表現は、『チョコレート・コスモス』にも出てきてなかったっけ。のっけから引用されているサルトル、読むべし。

『天の前庭』に続いて2作品目。えーと、どんな話だったか。アマゾンの紹介によると、こんな感じ。

出版社/著者からの内容紹介
女子校で起きた連続墜死事件。死んだ男性国語教師は女生徒と協力しあって書き上げた自作の新人賞受賞を死の直前に辞退していた。雑誌で作中の文章と同じものを発見したからだ。その文章の真の作者は誰なのか?(以下略)

恩田陸の描く女子高は、まるで岩舘真理子の漫画のようだけれど、この人の世界は、もう少し現実寄り。『天の前庭』も、現実と虚構が曖昧になってしまうような浮遊感があって、でもその浮遊感は、現実とかけ離れたものではなく、現実の世界を曖昧にしてしまうようなそれなのだ。「さすが詩人」で括ってしまえばそれまでだけれど。

シンプルで見ようによってはかわいらしい装幀がよく似合って、なのに毒がある。毒があると思ってみれば、そういう装幀にも見える。柔らかい棘がある。

この人は読んでよかった。今の私にぴったりくる。年齢が近いせいもあるのだろう。そういえば、子どもを産んだ女性は出てこないな。老女のような子どものような40代独身女性。

葉子は自分があまりにも、孤独というものをむさぼりすぎたような気がしていた。

でもそれも傲慢なことね。今という時間を、まるで過去のように、眺めていたんだから。いつだって、いまあるここに自足できずに、そこから落ちていきたくなるアホなのよ、あたしは。

  • 欲しかったモノ』写真/雨宮秀也、文/長町美和子、編集/内田みえ、装幀デザイン/山口信博+須山悠里、ラトルズ、2006/02

赤木明登/小泉誠/坂田敏子/高橋みどり/永見眞一/中村好文/前川秀樹/三谷龍一/山口信博の各氏が、高松の職人さんたちとコラボレートして作った「欲しかったモノ」。できあがった作品は、こちらで購入可能。http://www.6jo.co.jp/

職人とデザイナーの共同作業は、どこでやっても面白いものができそう。コーディネータは大変かもしれないけど。

とりあえず、あらすじからこれにしてみた。サンドバッグを打っているような、サンドバッグになって打たれているような。ありだろうとは思うが、何度も好んで読もうとは思わない。

今風だなあ、と思ってすーっと読み通したら、保坂和志が、この作品には「作品独自の運動」があり、「感傷的な展開しか期待しないタイプの人たち」は、それに気づかず読んでしまうだろう、と書いてあった。ふーん。1作ではなんとも。保留。

どう考えても貧乏になりそうなので、やっと読んでみた。うわー、さすがだー。下手にまねをするのは厳禁。「不便、不都合、不衛生にとりまかれながら。寝そべって言葉の白に立てこもっていられる強さ」を持つ人にしか許されない生活だから。人物評がめちゃくちゃ面白い。たくさん書き抜いた。小説も1作くらい読んでみよう。「寝台場面」に期待。森茉莉が敬愛していたという室生犀星、読んだことないので読んでみよう。

彼は人柄そのものも不可解で、紳士でもなければ、野人でもなく、馬丁でもないし、下郎という感じでもない。

とか書かれた深沢七郎哀れ。そういうことを微細に考察されても。

月長石 (創元推理文庫 109-1)』つながりで。メフィスト賞受賞作とか。らしいけど、インパクト弱し。唯一、狂言回しとして登場する、東大卒の女性警部?(階級忘れちゃった)が、信じられないほど頭が悪いことだけが印象的。

あら、福井の猟奇殺人が岡山に飛び火してる。でも、舞城の詩情と明るさはないわね。岡山。岩井志麻子といい、ホラーなイメージがこれで定着。土着の民俗も登場するしね。穏やかそうなお土地柄なのに。ビーズのハンサムな人、オダギリジョーに続いて、美男の産地だということもわかった。

書き出しからずっとテンションが緩まない。人物設定も破綻がない。たまたま猟奇殺人だけど、青春の閉塞感は伝わる。

1作読まなきゃ、と思いながら読まずにきてしまった人。透明感のある表紙は、本人の装画なんですね。

どこかの滅び行く星の少年たちの話。なんの説明もなく意味のわからない固有名詞が綺羅星のように登場し、それが、読み進むにつれて意味をなしていく過程が楽しい。癖のある言葉遣いにも無理を感じない。きれい過ぎる少年たちの生態も、鼻につくことなく読むことができる。不思議だ。自己陶酔や耽溺とは無縁だからなのかな。

少年たちの運命やいかに。その興味だけで居心地よく読める。

印象的な表紙で選んだ。短編集。幸福になる方法を知らない女の人たちの話。「なぜそうなったかはわからないけれど、とにかく昔からそうだった」ので、彼女たちにはなすすべがない。セラピーって何?みたいな。「幸福になる」という方向性が見えないので、彼女たちはその渇望を「不幸になる」方向へ注ぎ込む。まるで不幸になりたいように。「なんてかわいそうなの!」という評価を拒む。

子どもが主人公の場合は別だけど。不幸な子どもの話はいつだって胸が痛む。

これで「ほしおさなえ」名義の3冊読了。3冊読むと、ちょっと傾向がわかる。これも、現実と架空の世界の間を行き来する話だ。欲望は異空間を開く。だから、欲望を持っている以上、私の現実にも穴が開く可能性がある。「可能性がある」とか言っているのは、鈍感だからかもしれない。

本城直季の表紙が効いている。

*1:書き写し部分不明