ここ1週間

お掃除が終わったら書こう、と思っていたら、一週間経っても終わらないので仕方なくここらで書いておくことにする。いや、日記を書く時間くらいはあったのだけれど、愛用のヘッドフォンが行方不明になってしまって、半年に一度ずつ数万円単位で物を失くす自分って、ちょっと終わってるよね。と思ったら、普段は隙のないように気をつけているのに自己嫌悪に付け入られてしまって、たまには自己嫌悪の言うなりもいいか、と書かずにいたのだった。夜4時間、昼4時間の分割睡眠に切り替えて、PCの前から離れている時間をお掃除に費やす。シュレッダーフル稼働。大量のビジネス誌は中身を見ずに捨てる。毎日水害のニュースを見る。長野の友人と熊本の知人にお見舞いのメール。東京は過ごしやすい。

件のヘッドフォン「ゼンハイザー 密閉型ヘッドホン HD25-1 II【国内正規品】」は、物持ちの悪い私にしては珍しく、イヤーパッドを取り替えながら6年愛用してきたもので、量販店で適当に選んだ割には世間(アマゾン)の評判も悪くないことが判明し、ますます愛着は深い。壊れたのならあきらめもつく。しかし、失くすとは?どこで?カメラに気を取られていたか、バーゲンで我を失っていたか、まあ、可能性があるとすればそのあたり。日常生活に差し障るという点ではシグマリオンモンブランのボールペンをなくしたときの方が事は重大なのだが、ヘッドフォンという物体は、私にとっては何より音楽に関わるものなので、「私はミューズの神に見放されてしまったのではないか。こんなことで伊坂幸太郎を読む資格があるのか」と、微妙に傷ついたのであった。

さらに、シグマリオンのように生産中止になっていないのは良いとして、3万円の出費は痛い。それ以上に、6年使い続けてやっと、耳が痛まない程度の側圧に馴らしてきたというのに、ここで買い直したら、また元の万力状態に逆戻り、というのがなんともブルーだ。いや、3万円で他の機種を買うという手もあるけれど。あの軽さと無骨さ(と頑丈さ)を気に入っているのだ。予測もしていなかった場所から出てこなかったら、ショールーム行きだな。http://www.dynamicaudio.com/

と思っていたら、買ったばかりのカメラバッグの、双眼鏡をしまっているつもりの仕切りの奥から昨日出てきた。まずはめでたし。双眼鏡がどこにあるかは見当もつかないが、もはや多くを望むまい。予定通り4万円支払って、オートマ限定解除の講習に行くことにしよう。

というような状況なのに、本を読まずにお掃除に没頭するということができない。考えてみたら、私の有限な時間を奪っている、生きるのに必要不可欠でない作業の筆頭は読書である。かれこれ30年以上続けている作業なのに、どうして「大体様子はわかった。このあたりでいいや」ということにならないのであろうか。生きている間に「私の座右の書はこの本で、これ一冊あれば新しい本など必要ありません」という境地にたどり着くことは可能なのだろうか。老眼になると、本を読む意欲が減退するそうである。とても想像できない。というか、私を本から引き離す現実が天から降ってくるとは思えない(始終労働に追われて読む時間がない、という未来は大いにあり得る)。それでも、老眼と白髪の影響は、シミとシワによるそれとは別次元なのかもしれない、と漠然と想像してみる。

で、軽く読書。『メディックス (IKKI COMICS)』。尻切れトンボは、もはや西村作品の一要素になっているとはいえ、ここで終了とはさすがに不自然。男の子が主人公って珍しいな。女の人ががんがん稼いでいないのも珍しい。『百鬼夜行抄 (8) (ソノラマコミック文庫)』。だんだん、一話ごとの展開がややこしくなりつつある。絵柄も変わってきてるし。おちゃめな開おじさんの今後に期待。今市子は、妖怪に対する造詣が深まっても、現実世界との絆をしっかり保ちそうな気がする。4月生まれは、基本的に幽玄の美とはなじまない。『陰陽師』が終わったときには、岡野玲子山本鈴美香よろしく教祖におなりになってしまうのではないかと心配したものだが、ちゃんと漫画を描いていらっしゃるようだ。『カリスマ探訪記 (ジェッツコミックス)』は、いまいち面白くない。やっぱり恋と友情の人でしょう。

Sweet Blue Age』。アンソロジーは基本的に読まないのだが、登美彦さん、新刊を出してくれないんですもの。期せずして、ここで角田光代を読むことに。よくまとまってるなあ、という印象。しかし、有川浩の破壊力の前で、一気に影が薄くなる。「クジラの彼」。すばらしい。有川浩は『空の中』以来2作目。『空の中』は、SFとしての評価も高かったと記憶しているけれど、むしろ、人間関係の描き方に、大らかさと包容力が感じられて好感を持った。今回の「クジラの彼」は、大甘直球の恋愛物。本領発揮と見た。SFの要素なんかなくても全然オッケー。合コンで出会ったハンサムな彼は、海自の潜水艦乗り。いったん航海に出ると、何ヶ月も会えない。艦の名前も航海先も、いつ帰港するかさえ機密事項だ。現実はいろいろ厳しいけれど、彼と彼女の気持ちは全くぶれない。いいよなあ。「ささいなことでぶれてしまう、微妙な恋愛感情」とかって話は世の中に氾濫しすぎ。「潜水艦」=「クジラ」というイメージを裏切らない一筆書き。

登美彦さんのは「夜は短し歩けよ乙女」。月の下、魑魅魍魎に取り巻かれて歩く清純な乙女と、駆けずり回る間抜けな男。ぷぷぷ。お気の毒。

大らかといえばこの人の描く恋愛もそう。辻原登の『花はさくら木』。18世紀半ば、十代将軍家治と桃園天皇の時代。コメからカネの時代になりつつあることを見越した老中田沼意次は、北浜の両替商鴻池と手を結ぶことを画策する。そのためには、御所の動きを封じることも必要だ。御所に乗り込んだ田沼を迎えたのは、幼少の天皇を護る養母の青綺門院と智子内親王、そして、商人の娘ながら菊姫と呼ばれる、淀君の血を引く少女だった。やがて田沼の腹心の部下が菊姫に恋をし、二人の恋は、淀川の水運を支配する菊姫の父との抗争、朝鮮通信使の動きと絡まりあって、二人を遠く唐の国まで運んでゆく。彼の主人公たちは、こともなげに海を越えてしまう。民族や距離の壁は、人の想いをさえぎることはできない。その一方で、早世した弟帝の後を襲って後桜町天皇となる智子のように、「ここ」に留まることを決心する者もいる。それもまた一つの想いである。辻原登の小説を読んでいると、大きな川を流れのままに下っているような心地になる。小さな舟なのに、なぜか心細くない。

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』。表紙がぴったり。山本直樹のイラスト&祖父江慎+コズフィッシュのブックデザイン。ちょっと字詰めし過ぎた感じが(実際は行間が狭いのね)息苦しくて。本谷有希子オールナイトニッポンでパーソナリティも務めているそう。『あらゆる場所に花束が… (新潮文庫)』は、相変わらず読み終わるのにすごーく時間がかかった。渡部直己の解説で、やっと一息。『働く過剰 大人のための若者読本 日本の〈現代〉12』はもう少しで読了。「大人のための若者読本」という副題なので、大人側に立って読むべきなのだと思うが、いまだに試行錯誤中の身にそんな余裕はなし。小さい頃に具体的な職業希望を持っていた人、あるいは希望に修正を施してきた人は、仕事上のやりがいを感じることが多いそうである。私は小さい頃、何もかも無理なような気がしていた。基本的に不戦敗の歴史である。『写真展に、行ってきました。』は、なんとなくチェックしておいた本。中島博美さんとの対談を目の前で聞いたことがあって、飾り気のないお人柄がいい感じだな、と思ったことを覚えていて。文章もその通り。大仰でないことが好ましい。茅野出身とのこと。大変だろうなあ。カメラが手になじむので、これからたくさん、写真集や写真展を見ようと思う。『はじめてのGIMP―無料で使えるペイントツールの決定版! (I・O BOOKS)』購入。『りんこ日記』注文済み。

テレビで気になったのは、羽生善治の対談と、久米宏のワールドカップ総括、古川日出男の自著解説。羽生善治は、話しているのを初めて聞いた。まるで言葉を相手にする職業の人のように見えた。司会の茂木健一郎よりもずっと。茂木健一郎は、漠然とバリトンの声だと思っていたら、完璧テナーで拍子抜けした。そういう意味では古川日出男もそう。おじさんにも青年にも見える印象だった。ラベリングに対する頑ななまでの拒否感が聞いていて面白かった。久米宏、好きなもので。

読み終えたのはちょっと前だけど、最後はカポーティ

そのとき私が何をしたかわかる、モーリーン?私は破産状態だったけれど、メイドをやとったの。それから運が向いてきたわ。外見がすっかり変わった。私は自分が愛され、大事にされているって感じた。だから私があなただったら、モーリーン、ものを質に入れても高い給料を払って人をやとい風呂の用意をしてもらったりベッドを直してもらったりするわ。叶えられた祈り

本気にするなって?しかし、これだけは言える。すべての啓示は掃除を示す。