旅行一日目(熊本編)

タクシーで日本橋まで移動して、都営浅草線経由で羽田空港へ。直通35分で590円。このところの空港へのルートは、大体このパターンである。珍しく搭乗30分前に空港に着いたのに、結構な人がいて手続きに時間がかかる。夏休みってこんな感じなのか。おまけに、搭乗した後になってから「滑走路が混んでいるので、離陸は15分遅れます」とのアナウンス。今からじゃ誰にも連絡できないよ。

「周りに人がいない席」をお願いした甲斐があって、通路に挟まれた3列に一人だけ。『一眼デジカメ虎の巻 (講談社+α新書)』をつらつら読む。今回の旅のお供は、このデジカメ参考書と『“ことば”の仕事』『9条どうでしょう』『りんこ日記』。毎日人と一緒にいる予定なので、若干少なめ。フィクションなし。直前に読んだ『海の底』のラスト50ページで満腹したというか。『沈黙の艦隊』で海江田と深町、どちらが好きかといえばそりゃあ海江田に決まっているが、海江田君が万が一目の前に現れたとして、何か語れることある?「サインください!」ってわけにもいかないし。すっごく面白かったけど、所詮少女漫画読みには歯が立たない世界なのだった。それが、この『海の底』の少女漫画ぶりときたら。冬原春臣と夏木大和。ネーミングからしていい感じ。海自の若き潜水艦乗り二人が横須賀寄航中、街がとんでもない奇禍に巻き込まれ、二人は命を賭して任務を遂行する、という話。

しかし、男ばかりの潜水艦で、どうやって男女の恋愛を基本とする少女漫画的展開が可能になるのか。先に読んだ「クジラの彼」は、ハルの恋愛譚だったけれど、必然的にハルが陸に上がっている最中のお話だった。基本的に、潜水艦に女性が乗っているという事態はあり得ない(「自衛隊ルポ 潜む情熱、放流のとき」)。じゃあ、女性を潜水艦に乗せて、乗組員と恋愛させるためには?非常事態を起こせばよい。

というつもりだったわけではないでしょう。もちろん。しかし、結果として、合コンみたいなちゃらちゃらした場所では女の子にそのよさをわかってもらえないナツは、本来あるべき場所で、無骨で優しくて頼りになるところをいかんなく示し、合コンなんか行きそうもない、ちゃらくない美人(の卵)の心を捉えたのだった。設定の勝利である。

「「怪獣映画」と「少女マンガ」のハイブリッド」(by http://d.hatena.ne.jp/tach/20060527)と評される有川浩。今回の怪獣は、突然変異で巨大化した、学習能力の高いエビ。『空の中』に出てきた不思議な物体よりは想像しやすい。「エビ」なんかに自衛隊を出動させて武器を使用させていいのか、という、意思決定にまつわるうだうだも読みどころの一つ。固有名詞をちりばめた自衛隊トリビアは、詳細であればあるだけ、ハルやナツの「スペシャリストっぽい感じ」を高める背景になる。もう一つ、これだけ「嗅覚」に重きを置いた小説というのもすごい。

『海の底』かどうかはわからないが、有川浩のことを大森望絶賛だそうな。なんとなくわかる気がするのは、大森望は、おばさん的感性と少女的感性を兼ね備えた人だと思っているから(バリバリのハードSFも推薦なさっているけれど)。そういう意味では森博嗣も同様で(『どきどきフェノメノン』の胸が痛むほどのきらきら)、それを言うなら萩尾望都を好きな男性が、萩尾望都のSF部分だけを好き、ということはほぼ無いだろうから、萩尾望都好きの感性は信用できる。ということになるのかな。ともあれ、『海の底』は、今後有川浩は全作読むことにしよう、と決心することになった一冊なのであった。

さて、地上に降り立ったのは、予定到着時刻から10分遅れて9:55。熊本も快晴。一度も揺れなかったような気がする。迎えに来てくださった福岡在住のOさんとは、去年美祢サーキットでお会いして以来の1年ぶりくらいの再会。とは言っても、ほとんど話したことはない。とんでもなく話が合わなかったらどーしよーと不安ではあるが、何せ疲れているので、弛緩して気を遣う余力がない。

それより、またしても、「走る車」試乗体験である。Oさんの運転してきた車はスバルの「レガシィ」。なんだかいろいろチューンナップしているそうである。後部に「PIAA」のステッカー(ご本人は道上龍のファンらしい)。「ヤンキーの車ですわ」と笑っている。屈託ないなあ、ははは。

走り出してすぐに、右手に阿蘇の山並みが見える。風力発電の風車がゆるゆる回っている。熊本ってこんなところだったっけ。小学校の修学旅行で来たときのことは、ほとんど記憶に残っていない上に、なんだか空が暗かったような(天気悪かったのかな?)。今日見る阿蘇は、あくまでものどかだ。空が青い。途中、ちょっとだけ車が列をなしているけれど、こういうのは東京では渋滞って言わないよ。多分、ミルクロードという道路を登り始めて、景色はますます広大になり、牛がそこかしこで草をはぐはぐしている。仔牛もいる。「絵はがきのような風景」に、不覚にも心打たれる。呆然。

途中、ちょっと道に迷って、オートポリスへの到着は11:30。首都圏から離れたサーキットということで、美祢や岡山のようなこじんまりしたサーキットを思い描いていたのが、突如現れた堂々たる建物とコースに驚く。そして豊かな緑と山々。富士スピードウェイも、富士山を臨む雄大な景色が売りだけれど、あれは、明らかに日本の風景(風呂屋で見過ぎたか)だ。それに比べて、オートポリスは、欧州の避暑地に来たような印象を受ける。山に囲まれているのに、閉塞感がない。

F3の第12戦予選になんとか間に合ったので、芝生コース脇のフェンス越しに写真の練習。安岡君が欠場なので、いつもの予選の緊張感は全くなし。順位もタイムも計測できず。それより、「流し撮り」モードを試しているのに、車の前部か後部しか写らないよ。むー。

ピットウォークに参加して、レストランで昼食を食べ、午後からはメイングランドスタンドで観戦。このサーキットは、パドックがコースの外側にあり、他のサーキットではパドックのある場所にロイヤルルームがある(http://www.autopolis.jp/course/course_map_big.jpg)。一般向けのメイングランドスタンドは、コースの外、パドックの横に位置するため、スタートを正面に見ることができない。もちろん、パドック作業は見えない。ちょっと残念。

F3第11戦は、スタートでは若干順位の変動があったらしいが、中盤からは全く動きのない平穏なレース。いつもなら後ろからスタートしても追い上げてくるスーティルや塚越も、全然ペースが上がらない。結局、大嶋選手がポール・トゥ・ウィン。

レース後、女性と子ども連れを対象としたピットウォークにちょこっと参加して、一日だけのレース観戦終了。帰りは、JRの肥後大津までOさんに送ってもらう。Oさんは学年が私と同じとのことで、当時の懐メロの話とか。三原じゅん子坂口良子が好きだったそうな。明日はお嬢さんと観戦するとのこと。頑張れバツイチ。なんとなく、福岡での予備校時代、一緒のクラスだった男の子たちを思い出す。なんとなく、のんびりしとうよね、こっちは。思うに、冬に寒さや飢えで死ぬことのない気候が育てる気質というか。私にもその血は流れてるんだけど。「人見知りする方やろ?」と心配そうに聞かれる。気を遣わせてすまん(笑)。一日、いろいろどうもありがとう。安岡君の走りは見られなかったけれど、やっぱり来てよかった。

さて、肥後大津からは気合を入れなおして、青春18きっぷで鈍行の旅である。肥後大津発18:29の電車は、帰省先の鹿児島まで、今日中にたどり着くための最終便。熊本で乗り換え、八代で再度乗り換えたところまでは覚えているが、いつのまにか「肥薩おれんじ鉄道」なる名称に変わった旧鹿児島本線に入ってからは何度乗り換えたか覚えていない。道中ほとんど眠っていた。それより!「肥薩おれんじ鉄道」って、青春18きっぷ使えないんだ!途中、1箇所だけ「この切符ってこの鉄道で使えるの?」と運転手さんに尋ねられ、「え、ここまで何も言われませんでしたよ」と答えて通してもらったのだが、今調べたら、どうも別に切符が必要らしい(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9D%92%E6%98%A518%E3%81%8D%E3%81%A3%E3%81%B7)。すみませんでした。それにしても、「日本全国、青春18きっぷでどこにでも行ける」わけじゃないことがわかって、ちょっとショック。

鹿児島に近づくにつれ、丸刈り男子が目につくようになる。ちょっと前に「「眉毛をそってるから」負け 鹿児島の中学総体」という記事が出て、「あー、いまだに変わらないんだなあ」と暗い気持ちになったことも記憶に新しい。小倉で小学校時代を過ごした後、鹿児島に戻ってからの中学・高校時代の6年間は、そのまま登校拒否の6年だった。親以外に会う人のいない場所。自宅の比較的近くに新設されたJRの駅に、ちょうど日付が変わるころ降り立ち、父母の出迎えを受ける。帰郷。(08/15)