F1フランスGP決勝

未だに実感がわかない。ライコネンが優勝だなんて。開幕戦の勝利は、夢の中の出来事のように遠くなっていたから。

確かに彼は、ヘレスシルバーストーンのテストで好調をコメントしてたけど、蓋を開けてみれば、フランスGPの予選、結局マッサがポール。ハミルトンにも遅れをとって、アロンソのトラブルがなければ「定位置の」4番手だった可能性も。ということで、期待せずに惰性に近いポジションで見始めた今夜の決勝。

そういえば、今回は久しぶりにスタートが良かったんでしたね。「今のハミルトンをかわすってのは、実は快挙かも」と一瞬喜んだ後、「でもこのままじゃ、マッサの逃げ切りパターンだよな」と、気分は相変わらず醒めたまま。「おっ」と思ったのは、マッサが2度目のピットに入った後、「これでライコネンは有利になりましたね。ここでプッシュすれば、次のピットストップで順位が入れ替わりますよ」という森脇さんの解説を聞いたとき。「もしかして、行けるのか!?」と、やっと本腰を入れて見始めたのだった。森脇さんの真摯な呼びかけに応えて(というか、森脇さん、地味だけどかなり本気で、ライコネンにエールを送ってましたよね)、無事、ライコネン、ほぼ100日ぶりに首位奪還。なぜかため息が出る。残り30周、ソフトタイヤは保つのか? と解説陣は不安を煽るし、何もなくても勝手に不運を呼び込むのがライコネンだし。何が起こっても構わないように心の準備を整えて、画面に見入る。キミがチェッカーを受けても、キミのガッツポーズを見ても、気持ちは不思議なほど平静。どうしたんでしょう、私は。

勝ったけど、ピット戦略での勝利だった。スタートはむしろ、今までが悪すぎただけ。それでも、勝利は勝利。年間チャンピオンになるための、大事な10ポイント。だけど、「キミは、ジル・ヴィルヌーヴにはなれないんだなあ」と、改めてちょっとさみしくなったのだった。2005年の、アロンソと戦っていたときの、アグレッシブな走りはどこに? 

同時に、キミのこれまでの発言を振り返って、彼はやっぱり冷静で、周囲に惑わされず、自分のやることはきっちりやってるんだろうなあ、と思った。この間「F1グランプリトクシュウ」にも書いてあったけど、これまでミシュランのタイヤで戦ってきたドライバーにとって、今年のブリヂストンワンメイクタイヤは慣れるのが難しい。むしろ、ブリヂストンのスリックタイヤを履いて走っていたGP2組の方が、今年のF1は有利だと。

慣れないタイヤ、オーバーテイクのしにくい車。才能さえあればどんな車でも即座に乗りこなせるというものではないのだと、今年の彼を見ていてつくづく思った。彼は饒舌ではないけれど、苦境も今後のあるべき方向も、誇張なく語ってきた。再び勝った今、そのことは信じられる。「才能あるドライバー」という称号は既に腐るほど手にしている彼にとって、今一番必要なのは、年間タイトルを獲ることだけ。ちまちまとポイントを稼ぐために走りが小さくなったように見えても、それがなんだろう。彼にそんな走りを長く続けさせるようなら、それはフェラーリがいけないのだ。今回、彼は勝った。それは、彼がちゃんとフェラーリに、自分が望む方向で仕事をさせたということだ。キミは勝って、あんなに喜んでいたじゃないか。ならば、彼が正しいのだ。黙って彼についてゆこう。

しかし、同じように慣れない車で、ある意味、キミとは別のプレッシャーに耐えているアロンソは、気合の見える走りだった。あー、アナタの血は、確かに赤いに違いない。そんなアロンソの前に再三立ちふさがったハイドフェルドには、今期「ブロック王」の称号をあげよう。ハミルトンとクビサオーバーテイクショーは楽しかった。ハミルトン、もはや3位では周囲が納得しない男。イギリスGPでのご予定は? 当然優勝するおつもりで? やっと1ポイントゲットのバトンにも、ホンダは母国GPではもっといい位置でゴールさせてほしいものだ。

ライコネンが勝てば勝ったで、なんとなく寂しい週末。まだ、モンテゼモーロの望む「恐れられる男」にはちょっと遠いか。でもマッサは、政権交代の予感にちょっと怯えているに違いない。でも、もともと弱いものを怖がらせてもねえ。ライコ、今頃どこの屋根の下で飲んだくれてるんでしょうか。