雲取山登山(一日目その1)

雲取山登山初日。残暑が厳しいにもほどがある。こんな日に15キロも縦走したら死ぬ。でも、今日は電車とバスで移動、とりあえず10キロ山道を歩いて宿にたどり着けばいいだけだもんね。余裕しゃくしゃくで、徹夜で本なんか読んでしまった私であった。旅行前日は、大体において徹夜で仕事をしているか、仕事がなければ徹夜で読書と決まっている(だから、旅行初日は読書の話で始まることが多い)。

ここ2週間ほどは、特に読みたいというわけではないけれど、たまってしまっていた小説をひたすら読んでいた。西尾維新週間を片付け(やっと『刀語』以外を全て読了)、久しぶりの宮部みゆきの『模倣犯』上下巻も片付け、海堂尊はその人気ぶりがよくわからず、初読の岩井三四二を2冊読んで感触をつかみ、吉村昭の最後の著作物だという『ひとり旅』を読みながら、そういえば『大明国へ、参りまする』といい、『剣と薔薇の夏 (創元クライム・クラブ)』といい、私が読む時代小説は、異国と関わりを持った日本人の話が多いんだな、と合点する。『神野悪五郎只今退散仕る』でちょっと気分転換し(稲生平太郎って?)、『もろこし銀侠伝 (ミステリ・フロンティア)』でまたへなちょこ中国物を読みたくなり、小説にちょっと飽きて『“ポストモダン”とは何だったのか―1983‐2007 (PHP新書)』と『ピアニストは指先で考える』。「500ページ超級」は「カラマーゾフ」4、5巻以外これで大体終了かな、と肩の荷を降ろしたところで『星新一 一〇〇一話をつくった人』が来る。新一のお父さんの星一の伝記部分を読んでいて、たまたま同時期に届いた『偽史としての民俗学―柳田國男と異端の思想 (怪BOOKS)』の柳田國男と時代的にぴったり重なるじゃないか、と気づき、平行で読み進める。

とここまでが旅行前日の状況。前述の2冊はすぐには読み終わりそうにないので、引き上げたばかりの『現代語訳 樋口一葉「闇桜・ゆく雲他」 (現代語訳樋口一葉)』を手に取る。現代語訳の担当が、山本昌代井辻朱美多和田葉子角田光代と、かなり豪華。他の巻を島田雅彦阿部和重等が担当しているので、多分5巻全巻読むことになるだろう。しかし私に「明治返り」のきっかけを作ってくれた水村美苗がこのラインナップに入っていないのはちょっと残念だ。

表題作を読み終わったところで、思わず舌打ちする。やられた。救いがないのに甘い。淡雪の甘さ。そして巧い。これが処女作だというのに。『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない―A Lollypop or A Bullet』を遅ればせながら読んで、「全部ここにあるじゃないか」と今さらながら驚いたときと似ている。山本昌代、現代語訳もなかなか。多和田葉子はさすがに隙がない感じで、それに比べると、角田光代訳は、ちょっとすかすかする。

次に考えなきゃならないのは、山にどの本を連れて行くかである。今回はずっと荷物を抱えて歩かなくてはならないので、持って行けるのは1冊だけ。『羆嵐 (新潮文庫)』は残念ながらまだ図書館に届かない。『山のパンセ (集英社文庫)』は、途中まで読みかけのまま放ってある。この人、ちゃらちゃらしたお気楽ハイカーに厳しいのだ。山岳部の女子大生にコーチに出向くにあたって「真のアルピニスト」になるべく鍛えてやろう、というくだりがあり、なんだか恐縮する。たかだか2000メートルの夏山に、シュラフも食糧も持たずに出かける山行きには、ちょっとふさわしくない感じ。ってことで『グラン・ギニョール城 (創元推理文庫)』。無難なところ?

読書を終えた後、6時くらいから準備を始める。富士山に行ったときの装備表(http://d.hatena.ne.jp/frenchballoon/20070805)を元に、ウィンタージャケットとレインスーツを外し、代わりに、宿泊用の着替えとiPod、ヘッドフォン、シグマリオン、本、ご朱印帳をプラスする。宿泊する分むしろ荷物は増えてしまうが仕方ない。レインスーツは外したけれど、雨が振ってきたら、多少耐水性のあるアノラックで代用するつもりでいる。足元はスパッツ、荷物はザックカバーで対応できるはず。昨年同時期に上った両神山でも雨に降られて、そのときにほとんど寒さは感じなかった覚えがあるので、荷物さえ守れれば後は構わない。

8時に家を出て、近所のコンビニでおにぎりとウイダーエヴィアンを購入。不動尊に頭を下げて東西線に乗り込む。中野でJRに乗り換え。特快で立川まで出て、本来乗るはずだったホリデー快速にここで乗り換え。10:24奥多摩駅到着、10:30に鴨沢西行きバスに乗る。今日の宿泊地「三条の湯」(http://www.taba-kan.co.jp/sanjou/index/)の到着期限が夕方の17:00。最寄のバス停から「三条の湯」までの標準歩行時間が3時間なので、余裕を見てお昼前後に奥多摩駅を出るバスがあればちょうどよかったのだが、最寄のバス停である「お祭」もしくは、その少し手前の「鴨沢西」を通るバスは、10:30の後は13:20まで便がない(http://www1.ocn.ne.jp/~kumotori/jikoku.htm)。大事をとってこちらにした次第。

観光客と登山客でバスは満員。狭くて曲がりくねった道を、バスはゆっくり登っていく。5月のドライブの際にはほとんど見られなかった奥多摩湖を、心ゆくまで眺める。ここ1週間晴れていたのに、水は茶色く濁っている。岸に近いあたりには流木が大量に打ち寄せられていて、今さらながら過日の台風の猛威を知る。終点の鴨沢西到着は11:10頃。終点までの乗客は10数名だった。(09/25更新)