雲取山登山(一日目その2)

今日の行程は、まず「鴨沢西」バス停から411号線沿いに「お祭」バス停まで15分歩き、右折して林道後山線に入る。林道を終点まで2.5時間ほど歩き、さらに30分ほど歩いて「三条の湯」を目指すというもの(http://www.taba-kan.co.jp/sanjou/index/)。一緒にバスを降りた人たちがどこへ向かうのかは不明だが、とりあえず、彼らが歩き出すのを待つ。山登りのときはなるべく一人で歩きたいので。食欲のないまま昼食のパンを1枚食べ、他のグループを見送った後、さらに10分ほど時間をつぶして、11:30にバス停を出発。

まだ午前中なのに、とにかく暑い。自転車で追い抜いていく人たちが結構いる。そういえば、この道路はバイクと自転車の人が多いのだった。車と違ってトンネルの中ではその姿が見分けづらく、結構ひやひやした覚えがある。しばらく歩くと、国道沿いに見事な百日紅の群生が。電光掲示板の温度表示は31度だった。高度500mくらいはあるはずなんだけど。

「お祭」のバス亭の前に民宿があったので、ペットボトルのお茶を購入。今日手元に用意していた水は500ml+330mlのペットボトル2本分。そのうち小さいほうを既に飲み干してしまったので、一応買い足しておくことにした。「道が悪いから気をつけてね」と励ましてもらって、いよいよ林道に入る。

確かまだ通行止めのはずだが、工事車両が出入りするためか、通行止めの看板は脇にどけられている。舗装されている様子はなく、大きな水溜りやぬかるみが頻繁に現れる。これは工事中でなくても、あまり快適な道ではなさそうだ。地元のタクシー会社が嫌がって入りたがらないというのもよくわかる。

残念なことに「林道」から連想する緑の木陰やさわやかな空気は、今日に限っては期待できない。直射日光が砂利道をさんさんと照らし、空気は相変わらず猛暑日の気配。まあ、今回の行程は自分の体力確認という意味合いが大きいので、むしろ気合を入れなおしてがんがん歩く。前回導入した高度計を見ながら、今日は疲れを気にせず、平地と同じペースで距離を稼ぐ。10キロで高低差は500メートル。ここで疲れてしまっても大して問題はない。黙々と歩いていたら、あっけなく林道の終点に着いてしまった。ここまで入り込んでいる一般車が、結構多数。泥はねも落石も自己責任でってことかな。13:43分。コースタイムより30分ほど早い。すばらしー。

小さな川を渡って、やっと、緑に囲まれたそれらしい山道に入る。下り坂の天気を反映して、日差しも落ち着いてきた。ちょうど30分で今日の宿「三条の湯」の真下にたどり着いた。14:09分。なかなか良いペースである。満足。

スタッフの方に挨拶して、チェックイン。氏名等と明日の予定を書き込み、一泊+夕食の費用6,800円を支払う。他の宿泊者の方の気配はない。バス停で一緒だった人たちは、他の山に行ったのか、それとも、ここを経由して今日のうちに雲取山まで上ったのか。

「後で相部屋になってしまうかもしれませんが」という但し書きはついたが、8畳の部屋を一人で使用できることになった。ラッキー。しばらく荷物を片付け、鉱泉を沸かした温泉につかりに行く。もちろん一人。さほど強烈ではない硫黄の香りに包まれて、ちょっと熱めの湯につかる。窓の外は緑。うれしーなー。多摩川源流ということで、石鹸やシャンプー類は使用できない。が、体はさっぱり(頭は少し気持ち悪い)。湯から上がって部屋に戻る頃には、今日の宿泊者らしき人の姿が増えていた。

夕食は18:00。それまでは何をする予定もなく、徹夜明けの睡眠不足を補うべく昼寝をすることに。ところが、部屋の前のベンチに数人が陣取っておしゃべりを始め、そのうちの一人が大音声の関西弁でまくしたてるので、とても眠るどころではない。真昼間に大声でしゃべっているからといって苦情を言うわけにもいかないし、どっちにしろさして眠くもないので、あきらめて読書。体はさしてつらくない。コンタクトを嵌めっぱなしの目が多少つらく、若干の頭痛と肩こりを併発している。まあ、夜ちゃんと寝れば大丈夫だろう。

18:00過ぎに、食堂で夕食。今日の宿泊客は30名弱のようだ。そのうち女性は5、6名のみ。私以外の女性は、男性も含めた家族で来ているらしい。家族連れ優先で小さめの部屋が割り振られ、男性のみのグループは皆大部屋に入れられたのだろう。そこで私が一人だけ余ったので、一部屋貰えたものとみえる。「カレーかな、ハンバーグかな」とぼんやり考えていたら、ちゃんとした料理が出てきた。かぼちゃときのこの天ぷら、川魚とこんにゃく、たけのこ、さつまあげの煮たもの、キャベツのサラダとハム、そして今日の一押しは、今日漬けたばかりだというわさびの漬物。これに味噌汁とご飯がつく。新鮮なわさびって、こんなに美味しいものだったんだなあ、と感動した。素材が良いのだろう。天ぷらも煮物も美味しかった。ちょっと恥ずかしいくらいの勢いでぱくぱく平らげて、大変満足。人心地ついたところでやっと同じテーブルの人たちをチェックし、なんだかのんきそうな兄さんがビールを頼んでいたので、私も飲むことにして、宿のご主人も交えて食後のおしゃべり。

ご主人はいかにも山小屋のご主人らしく、「自然との共生」について話される。というか、何を話していても自然の話になる。十数年前に電力をモーターから水力発電に切り替えたこと、自分が生まれてこの方同じ場所にあった大岩が、この間の台風で流されてしまったこと、今年はきのこの収穫が少ないこと、畑で育てている作物は、8割収穫できれば上出来で、自然に「10割」を期待するべきではないというようなこと。狩猟の免許を取得したこと、増えすぎた鹿を撃ちに行くので、今後メニューに紅葉肉が登場しそうなこと。「熊に出会ったら、熊ががーっと立ち上がったときに、細長い棒か何かで突き倒せばいい」と友人が言っていた、と真顔でおっしゃっていたが、これ、信憑性あるのかしら。ちなみに、この近辺にも熊はいるらしい。が、たまに遠くからの目撃情報があるくらいで、出会ったり襲われたりということはないという。それでも不安だったら、鈴をつけるのもいいかもね、とのことだった。

同じテーブルのお兄さんたちは男性二人連れで、会社の先輩後輩とのことだった。無口な後輩君は下戸なのか、ひたすらほうじ茶を美味しそうに飲んでいた。先輩君は『クライマーズ・ハイ』を読んで、なんとなく山登りを始めたところだそう。丹沢に続いて、雲取山はまだ2つめの山だとか。ルートは後輩君にすべてお任せ、山を歩いてるときは「何も考えてないな、俺ら」。自意識のなさそうなのんきなお兄さんと話すと、ほんと心が癒される私であった。明日は先に出発するから、ということで「またどこかで会いましょう。おやすみなさい」。

寝る前にもう一度湯に浸かりに行き、ほどよくぬるくなった湯があまりに気持ちよくて離れがたく、しばらくぷかぷか浮かんでいた。9時に小屋全体の明かりが落ちて、寝る。(09/26更新)