香港・マカオ旅行二日目(その3)トーキョーの御のぼりさん、カジノに足を踏み入れる。

そこそこの規模のホテルにはもれなくカジノが付設されているようではあるが、ここはやっぱり、老舗に敬意を表して、リスボア(澳門葡京酒店)から行くことにする。老舗ということは初心者にも慣れているということだろうし、今後の基準になってくれそうでもあるし。建物がいくつかあるうち、最も昔からありそうな低層の建物に、男性の一人客にくっついて、おそるおそる足を踏み入れる。まず、手に持っていたカメラのストラップに「撮影禁止」のシールが貼り付けられ、小さなショルダーバッグは外して係の人に渡す。人は金属探知ゲートをくぐる。ショルダーを開けるように指示され、中をちょっとのぞかれる(翌日入った「クラウン」以外はどこも同じだった)。

ちょっとしたインフォメーションデスクのようなものを通り過ぎ、さらに内側の境界を越えると、もうそこがカジノ。建物の外見どおりの円形のホールで、照明はちょっと暗め、床はカーペットだったかな。フロア全体が、暗めの緋色のイメージ。7、8人がけのカジノテーブルがぎっしりと並べられ、それぞれのテーブルをディーラーが仕切っている。テーブルを取り巻くように、スロットマシンのコーナーが点在し、キャッシャーも壁際にある。週末のせいか、お客の入りは上々。思ったよりぎらぎらした感じはなく、全体としては和やか。何やらの「気配」だけが、時たまちらっと顔をのぞかせる。

まずは現金(多分カードも可)をコイン(チップ)に換える必要がある。2万円程度なら遣ってもいいかな、という心積もりで来たけれども、いざとなると決心がつかない。賭け事、しない人だから。酒や煙草も、味や雰囲気を言う前に、かかるお金を考えて自制しちゃうから。パチンコすら、高校を卒業したとき、先生に連れて行ってもらって以来やったことがない。何よりこのところ、稼いでないからなあ。

ということで、しばらくうだうだと見物してまわる。「カジノ入門」すら読んでいないので、「簡単だ」と聞いていたバカラが、見ていてもちゃんとはわからない。「庄」(banker)と「客」(player)が、トランプの数字で勝ち負けを決めることはわかった。しかし、単純にカードの数の大小で勝つわけではないらしい(後で確かめたら、「9」に近いほうが勝ちとのこと)。ともかく、勝ったほうがチップを持っていく。よく見たら、お客がみんなそれぞれ勝負をしているわけではなく、勝負をしている二人以外は、「庄」と「客」どちらが勝つかに賭けていることがわかった。おお!自分で勝負をするのが怖い人(私のことだ)は、とりあえず、勝負をするどちらかに賭けることから始めればよいわけだ。

というようなことを理解しつつ、各台を見て回る。ルーレットだのジャックポットだのは、なんだかややこしそうなので今回はパス。ディーラーがみんな若い。女性がかなり多い。しかも、特に悪所で働いている感じではなく、ごく普通のチャイニーズの若い女性といった感じ。地元にあるのが工場だったら、工場で組み立てをやってそうな。昔風の赤いふちのメガネをかけてたりして(ちょっと萌える)。カジノって「地場産業」なんだなあ。客と見物人で盛り上がっているテーブルもあれば、誰もお客が座っていないテーブルもあるのが面白い。

圧倒的に若者が多い中で、30台後半くらいの苦みばしったハンサムなディーラーさんがいて、この人のところで腰をすえて観戦する。ずっとテーブルを変えずに賭け続けている人が5、6人。たまに、通りすがりの人がふらっと賭けて行く。毎回賭ける人、「誰か他には?」と聞かれて初めて賭ける人、たくさんチップを置く人、ちょっとだけ置く人、さまざま。bankerとplayerそれぞれに配られた札を、1枚ずつ崇めるようにして開けていく人もいれば、あっけらかんと引っくり返す人も。「あー、こうして見ていると、なんか、その人の生き様(とここでは言っておきましょう)が見えてくるなあ」とちょっと感動してしまって、ディーラーさんから「アンタも見てばっかりいないで賭けたら?」的な目線を送られるが、今となっては軽いノリでは賭けられない。

何かヘマをやったらどうしよう。という不安は、実は大してない。中国人でも「こら!もう勝負が始まってるぞ。今から賭けちゃだめ!」とか「勝負したいなら、この人よりチップを多く出さなきゃ!」とかって、結構中国語で怒られているので(言葉はわからなくてもこのくらいはわかる)、まあ、素人が1人2人混じって頓珍漢なことをやっても、場をぶち壊すことはなさそうだ。それよりも、自分のスタイルだ。歩くときのスタイル、飲んでいるときのスタイル、話すときのスタイルを自分なりに定めているように(私は自意識の塊なのだ)、賭け事のスタイルも定めねばならぬ。ちょうちょのように軽く行くか、木石のように静かにしているか、日本語で独り言を口ずさんだものか、見栄を張ってたまにはたくさん賭けるのか、ちまちま100ドルずつ賭けるのか、それらを混合するのか、何も定まっていないし、急には定まらない。あー、せめて3,000ドル分(4万5千円)くらいのチップを動かせれば、いくつかのパターンを試せるのに! ちなみに、バカラであれば最低200〜300ドルのチップで遊べるのだが、なけなしの2、300ドルをあっという間にすった時の自分に自信が持てない。

ってことですごすごとテーブルを離れる。兄さん、勝負は次回にさせてくれ。

しかし、1銭も賭けずに「カジノを体験しました」とは言えない。せめて、スロットとやらを試してみよう。これも全くやり方はわからないので、しばらく人の後ろから見学させてもらう。「図柄合わせゲーム」ということくらいはわかる。しかし、なんだかボタンがたくさんある。とっても儲かっているおじさんがいて、その人のところでは、始終なんだかめでたそうな音が鳴り響いている。点数らしきものもなんだか桁がすごく多いし。そのおじさんは、二段目の右端のボタンばかりを連打している。あのボタンはいったいなんじゃらほい。お隣で、そのおじさんの娘さんだかが賭けているが、同じゲームなのにこちらはさっぱり。この違いはどこにあるのかなー。

ともあれ、台に座ってみる。どうやらスロットは、香港ドルのコインか紙幣を投入すれば始められるらしい。まずは100ドル札を投入。最低5ドルから。機械が勝手に絵合わせをするその1回分1打が、20セントだったような(つまり、最多で25回ボタンを押せる)。ボタンがたくさんあるのは、1打ごとに「安い金額で、当たりの図柄の組み合わせは少ない」ボタンから「多少金額はかかるが、当たりの図柄の組み合わせ多い」ボタンまで選べるから。図柄の綺麗な台を選んで座って、ボタンを適当に変えて押していたら、知らない間に打ち終わってしまった。これはいかん、と返金ボタンでお金を取り出し、さっきのおじさんがやっていたのと同じゲームを始めてみた。「一番安い金額」のボタンを押し続けていたら、結構当たりが出てきて「なーんだ、結構簡単じゃない」という感じ。「当たり」の画面は、一種のチャンスタイムのことで、まず機械からデフォルトのボーナスポイントが提示され、そのポイントをそのまま自分のポイントに加算するか、機械と勝負してボーナスポイントを増やすかどうかを尋ねられる。「勝負」は、画面に現れる「黒」と「赤」のカード、どちらを選ぶかで勝敗が決まる。勝つとボーナスポイントは倍増、さらに勝負して勝つと、さらにポイントは倍増する。負けると一切ポイントは加算されない。この「勝負」に勝てるかどうかが勝つためには大きい。大きく儲けたければ、4回、5回と勝ち続ける必要がある。私はといえば、運よく3回も勝てれば、それ以上勝負を続ける度胸はなく、ポイントに組み入れていた。

「一番安い」ボタンで、当初そこそこ当たりが出ていたので、愚直に安いボタンを連打していたら、そのうち当たりが出なくなってきた。気分もわびしくなってくる。100ドル(1,500円くらい)を使い果たし、もう50ドル入れてみるものの、結果は同じ。ちょっと悲しい。すってしまったこと、というよりは、「とっかかりが見つからなかったこと」が。

あー、目がしょぼしょぼする。スロットを本気でやりたいなら、メガネ持参だ。コーヒー補給。ちなみに、カジノ内では飲み物はフリー。ミネラルウォーターのペットボトルはそこら中に山積み。食べ物もどこかで見た覚えがあるが、面倒で見つけきれなかった。連絡通路伝いにほかの建物も一通り見て、他のカジノも見に行くことにする。とうに日付は変わっているけれど。

外は相変わらず人がたくさん。通りを隔てて、黄色いネオンが印象的な「Grand Emperor」(英皇娯楽酒店)へ。ここはなんだか客筋が合わないので(ちょっと荒んだ感じがしていたような気が)、早々に撤退。「外資系大規模カジノ」ってのを見てみたいんだけどなあ。次に行ってみたのが、「ギャラクシー・スター・ワールド・ホテル」(星際酒店)。ここ、新しくて天井が高くてぴかぴかなんだけど、フロアに上がってみると、広さと豪華さの割に使っていないテーブルが結構あって、ちょっとすかすかする。熱気が足りない。ホテルの外にも中にも大スクリーンがあった。

リスボアに負けるとも劣らず、光を放つ建物が遠くに見えたので、行ってみることにする。「MGM Grand」(美高梅金殿)。が、近づいてみると、残念ながら工事中だった。12/18オープンの由。夜目にも美しかったなあ。次回はぜひ。続いて、MGMの隣の敷地にある「Wynn Macau」(永利澳門酒店)へ。ワンフロアがだだっ広くて、絨毯の毛足が、リスボアよりも1センチばかり長そうな感触。なんだか富と金の匂いがある。中国の「娯楽場」じゃなくて、「カジノ」の雰囲気。アメリカのカジノは知らないけど。白人比率がリスボアより多いところも「西洋風」を助長しているのかもしれない。贅沢できるものなら、泊まってみたいなあ。こういうところでは、多少偉そうに賭けてみたいものだ。ホテルは水辺に面していて、遠くのマカオタワーがきれいだった。

結局、「今話題の」カジノは見つけきれず(「Venetian Macao」「Grande Waldo」「Crown」「Sands」あたりのことね)、今夜はこれで帰ることにしよう。ちょっとお腹が空いたので、そこらで食べて帰ることにする。Wynnからリスボアへ抜ける地下通路で、マカオ・グランプリの「Lisboa Stand」の看板を発見。この上の道路が、まさに市街地コースなわけだ。

安い食堂を探してしばらくふらふらし、「Fortuna Hotel」前の中華料理屋さんでチャーハンで夕飯。お昼にサンドイッチを食べて以来の食事。例によって大量に供される。これが悩みの種。さすがに食べきれずに残してしまった。せめてお粥にしておけばよかったかなあ。

タクシーでホテルへ帰る。頭がぼんやりして、あまりないことだが、自分の部屋の番号を思い出せなかった。ちょこっとテレビをつけてみると、香港と違って英語の放送がなく、なぜかロシア語のニュース番組が流れていた。そういえば、ロシア語を何度か耳にした覚えがある。そういうルートが確立しているのだろうか。このホテルは、唯一の欠点として、高い部屋以外はネットが使えない。よって、充電も閲覧もダウンロードもなし。そんな体力はどこにも残ってないし。シャワーを浴びるのに、シャワーヘッドが固定されていたのにはちょっと閉口したが、湯量や温度には問題はなく、なんとかさっぱり。ああ、またこんな時間になってしまった。躁状態だからもってるけど、実はかなり体力落ちてるぞ、とわかるサインが出ている。カメラで写真を確認すると、すべて12/01の日付ばかりで一瞬壊れてるんじゃないか、と疑う。が、香港島に降り立ったのも12月1日なら、海を渡り、マカオの街を歩き、カジノを見て回ったのも同じ12月1日なのだった。倒れたくなければ、明日は寝坊せねば。(12/12更新)