図書館に行くついでに、『氷菓 (角川文庫)』を寄贈してくる。米澤穂信の著書のうち、区の図書館にこれだけ所蔵がなかったので、もともと寄贈するつもりで購入・読了したもの。年内に彼の単独著作は全部読んでしまうつもりだけど、間にあうかなあ。ちなみにこれまで読んだのは順に、『さよなら妖精』『犬はどこだ』『ボトルネック』『遠まわりする雛』『氷菓』。あと5冊が未読。「読めるか」というより「届くか」が問題(この後の年内読了分は『インシテミル』『愚者のエンドロール』『春期限定いちごタルト事件』の3冊)。

さよなら妖精 (ミステリ・フロンティア)』を読んだときは、本筋に対する感想より、「この東欧に対する思い入れのようなものはいったい何だろう」ということが気になった。私はゴルバチョフの書記長就任とともに大学に入学し、その失脚の年に大学を卒業したのだが(今初めて認識した)、1989年、ベルリンの壁崩壊直前の春に東欧(ハンガリーユーゴスラヴィア)を旅行したこともあって、以来、東欧への関心は、人よりは深かったと思う(本当はもっと絆を深めたかったのだが、「語学」をその突破口にしようとすると、私の場合ことごとく失敗する)。

閑話休題。1978年生まれという作者の年齢からすると、東欧革命後立て続けに起こった旧ユーゴスラヴィアでの紛争が、作者に影響を与えたということらしい。私自身としては、民主化への道を着実に辿りつつあったハンガリーに対して、「ユーゴスラヴィアのままでいたほうがよかったんじゃないか」と思わせるようなボスニア紛争は、東欧革命を台無しにするような感じがして、正視しづらいものがあった。しかし、そういうバイアスをいれたとしても、若者があの紛争に影響を受けるのは当然のことといえる。

というようなことはわかったが、日本へやってきた異国の美少女と、彼女との友情を育んでいく周囲の高校生たち、という設定は、すんなり受け入れるには非日常的、ミステリの背景としては、背景の方が大きすぎ、何を読んでいるのかわからなくなるような収まりの悪さがあった。この作品を「傑作」と推す声と、「それはちょっと」という声の双方があり、私としては後者のほうが近かった。

米澤作品として次に手にとったのが『犬はどこだ (ミステリ・フロンティア)』。この作品の評価は知らない。でも、私にとっては「一生この人についていこう」と決心させた本。飄々とした主人公の探偵もいい。行方不明の女性の痕跡を辿るうちに少しずつ判明する事実と、少しずつ大きくなる違和感。探偵はとうとう、女性との対面を果たす。壮絶な状況下で。

フィクションでしか描けない世界。現実として起こり得ないわけではない。しかし、それを「三面記事」に貶めないのは、冷静でユーモラスな筆致と、女性への暖かい視線だ。彼こそは倉知淳の後継にふさわしい。

「日常もの」「青春もの」がこの人のホームグラウンドだということがだんだんわかり、実はどちらもそんなに得意じゃないんだけど、それを退屈に感じないのは、「平穏な現実」というものを「当たり前」のものとして捉えてはいない、醒めた目線が底にあるからだ。そして「冷静であろうとする」ことも青春の特質の一つだったと、思い出す。

ということで、古典部シリーズを未読のまま読み始めた『遠まわりする雛』のラストで不覚にも涙した後、『氷菓 (角川文庫)』に戻る。ここにも東欧の影と、さらに遠い安保の残響。もともとこういうことに興味のある人なんだろう。古典部シリーズの後に『さよなら妖精』を読んでいれば、感想も違っていたかもしれない。

図書館に本を寄贈するのは初めてで、事務室に本を持っていって「寄贈したいんですけど」と申し出ると、ちょっと迷惑そうな顔をされたのはちょっと意外だった。しかも、図書館に入れてくれるとは限らなくて、会議を開いて承認を得てからだという。「この人の作品で、これだけが図書館に入ってないので、ぜひ入れてください」とコメントを付け加えて辞去する。

午後から再び町田。国会図書館と政刊センターに寄った後、錦糸町で飲み会。「今日開店したばかりなので、半額にしときますよ」という言葉につられてとある居酒屋に入ったところ、あまり開店したての雰囲気はない。で、メニューを見ると、普通の居酒屋の1.5倍の値段。トマトのサラダを頼むと、ただのトマトの輪切り(1個分)が出てきたのには驚愕。これが500円。鍋を頼むと、小さな鍋に具がぽっちり。味はまあ悪くないのが、せめてもの幸い。2杯ずつお酒を飲み、何品か料理を腹に収めた後、早々に撤収。お代は6000円の半額で3000円。普通に飲んでもお酒4杯で2000円くらいはかかるので「ぼられた」というほどのダメージはないはずなのだが、後味は悪い。ビールのジョッキも小さかったしね。「半額」に釣られた主婦的感覚がいけない。後続のお客様方(結構客は入っていた)、ご愁傷様。

店を移動して飲みなおし。居酒屋のチェーン店がこんなに有難いとは。6000円3000円の散財がなければ、お寿司だって頼めたのになー(実害より精神的なものを引きずっている)。なんだか素晴らしく美味しい料理(この味覚はたぶん反動)を食べて、だらだら飲んで、いまいちしまらなかった飲み会終了。この友人とは「よいお年を」である。飲み会ウィークは来週まで。あともうひとふんばり。(2008/01/03更新)