F1ブラジルGP決勝

劇的なドラマ、というのはアップデートされるものなのね。

奇しくも、7ポイント差で年間王者の座が最終戦に持ち込まれるという去年の状況の再現となったブラジルGP。ラスト3周でベッテルがハミルトンを抜いて5位に上がったときは、マッサの優勝はこれで決まりだと思った。さすがベッテルだと、マッサ逆転優勝に華を添える、将来のチャンピオン候補にふさわしいエピソードが生まれた、と思った。しかし、タイヤ交換をしていないグロックが、こんなポジションを走っていたとは。ハミルトン包囲網の唯一のほころびを縫って、ハミルトン5位浮上。ラスト1周での出来事。これでハミルトンの年間王者が決定する。

去年ライコネンに1ポイントで優勝をもたらしたインテルラゴスは、ブラジル出身のマッサを非情にも突き放した。マッサがラスト1周で味わった、一生分にも匹敵するであろう歓喜と絶望。しかし、多分この数分間の経験が、主役扱いされることに慣れていない雰囲気が常につきまとっていた童顔のマッサを、王者の顔に変えた。全くミスのない、迷いのない今日のポール・トゥ・ウィン+ファステストは、表彰台でライコネンアロンソを従えるにふさわしい走りだった。あ、ライコネンもなぜかいい顔に見える。彼は彼で「チームとマッサをサポートする」という組織の力学に従った結果、一つ大人になった風情。今年は勝負に負けて、でも、頼れるお兄さんになった。結局、今年は、彼にとってそんなに悪い年ではなかった。そう信じることにしよう。そしてアロンソ。なんで2位にいるのさ? 当然のような顔して。ほんとに強いんだから。でも、アロンソライコネンのツーショットって、好きだ。正しい感じがするから。いつまでも見ていたくなるような、表彰台の風景だった。

走り終えてヘルメットを外したときのハミルトンも、なんというかいつもの仮面のような表情ではなく、はっとするような、真摯な表情をしていた。年間を通して、王者にふさわしい、という印象を与えることはできなかったけれど、彼は自分との戦いに、やっとの思いで勝ったのだ。これで勝てなければ、一転、ライコネンに劣らない悲運の持ち主ということになっていたかもしれない(笑)。無様な戦いというのも、人には必要だ。ましてやチャンピオンがかかっているとなれば。結果が出るというのは、残酷で美しい。

おめでとう、マッサ。と言っておこう。ようこそ、ライコネンと対等の世界へ。ここまで来たからには、仕方がない。認めてあげましょう。今年のF1シーズン終了。逆風に耐えたライコネンの来年の飛躍を祈りつつ。