苦難を生き延びたヒロインに、運命が授けた使命とは?

・『サバイバー・ミッション小笠原慧、管野研一(装画)、斎藤深雪(装丁)、文芸春秋、10/2004

BK1の新刊案内で、この表紙に惚れ、さらに著者の経歴に惚れた私は、図書館に走りましたよ。デビュー作及び前作の『DZ』『手のひらの蝶』、どちらも安心して読める面白さでした。

パターンは同じなんです。3作とも女性が主人公なのですが、ヒロインは①氷の美貌を持ち(3作目は普通の美貌かな?)、②心理学の素養があり、③恋人とはうまくいかない、④連続殺人鬼を追いかけ、⑤危険な目に遭い、⑥共感を覚える相手にもめぐり合う。⑦最後に、という話。

そういう意味では同じなんですが、一作ごとに余計なものがそぎ落とされ、完成度は今作が文句なく一番。2段組400ページの前2作に比べて、重量と専門用語は減りましたが、このすっきりした字面の間に、精神の闇がのぞいている(すみません。大げさな)。

何なのかなあ。筋立てもすっきり、結末もすっきり、読後感も悪くないのに、ただ「怖さ」が残るというこの感覚。怖い夢を見た後に思い出せなくて、気配にまとわりつかれるような。

現役の精神科医としての著作には、こういう本があります。小説でも、毎回「脳」が重要な要素となっていますが、脳と精神という際物になっても不思議はないテーマを専門家が書いて、しかも小説の才があるなんて、読者としてはラッキーなことです。

あ、最後になりましたが、読んだ夜はうなされました。