ささいなこと

雨の日に出かけるときは、できればお洗濯可能な服を着ていきたい。クリーニングから返ってきたばかりの麻の上下なんてもっての他だ。しかし、雨の日でも上から下まで真っ白なスーツを着て、皺一つ、滲み一つない装いの人もいる。どうやって歩いているのかな。

クロワッサンやパイを、ぼろぼろ壊さずに食べられる人も不思議だ。

不思議といえば、昔、偏差値の高い大学の学生にアルバイトしてもらっていたことがあって、彼に書類綴じをお願いしたところ、「机でとんとん」をやらずにホッチキスで留めたらしく、書類の角はてんで勝手な方向を向いていた。何も気づかない風であった。そういえば、彼は方向音痴でもあったなあ。でも、優秀でした。能力に見合った勤め先を得て、ついでに優秀な奥さんももらって、多分元気に生きている。

かと思うと、学業に秀でている上に事務作業も細かい男の子もいて、ヘタに書類を綴じようものなら、「僕がいつも使っている、綴じても厚みが出ないホッチキスを使ってくれなかったんですね」などと悲しそうな顔で言われるので恐ろしかった。

あ、も一つ思い出した。小学生の頃、島崎藤村を「しまざきふじむら」と読んだりするので心の中でちょっと馬鹿にしていた男子が、調理実習用に当方が買っていった豆腐を見て、「どうして木綿を買ってこなかったのか」とかなり強い調子で非難した。木綿と絹の区別も知らなかった当方はその時、自分の知らない世界の一端を垣間見たような気がしたことを記憶している(そして30年間忘れなかった)。水尾君、元気かしら。奥さんの代わりに味噌汁作ったりしてるのかしら。