「...している私」を見ているわたし

禁句を封印していたら、一時的に何もしゃべれなくなってしまった。ここではなくて、たとえ自分と神さましか見ていない場所でも、言葉にできないことはある(いや、そんな大げさな話じゃないんだけれども)。

地下鉄の中で、文庫サイズの罫線も何もないノート*1に、ブルーブラックのHI-TEC-Cで、びっしり何かを書き込んでいる女の人がいた。携帯でメールを打つ人や、スケジュール帳にちょこっと何かを書き込む人とは明らかにテンションが異なっており、さらに、彼女は膝の上にかばんを置いたその上にノートを開いて書いているので、その気になれば書いていることを読めそうである。そっと見まわしたら、私と同じ列に立っている数人は、もれなく彼女の方を見ていた。

地下鉄を降りて夕ぐれの地上に出たら、前をゆく太った男の人が二人、手をつないで歩いていた。「こりゃまた」と思いつつなんとなく見ていたら、おじさんが大きな子どもの手をひいているのだった。「手をつないでいないとだめなんだなあ」と思う。しかし、胸がいたむのは、彼らのためばかりではない。

*1:後で新潮社の『マイブック』というものだとわかった。