弥彦山〜長岡〜帰京(その1)

5時起床。今日の予定は、6:45新潟発の越後線でまずは弥彦神社にお参り。その後の予定は、時間次第である。昨日の強風が収まっていれば問題はないが、ぼんやりしていて東京に帰り損ねたら困る。昨日はしょらざるを得なかった、出雲崎、寺泊、分水のいずれかに行きたいけれど、越後線で吉田以南まで運行する列車は、午前中2本のみ。ちょっと難しそうである。

6:45の列車は、白新線の遅れにより、10分遅れで発車。強風による徐行運転は、白山を過ぎたあたりであっさり解除。天候は回復傾向か。吉田で接続の弥彦線に乗り換え、8時半前に弥彦到着。強風は相変わらず。参道を歩く人はいない。店は結構開いていて、あちこちの店頭から、おまんじゅうを蒸す蒸気が立ち上っている。饅頭の姿は見えねど、食べたい気持ちは募る。帰りにはぜひ食べようと心を決める(しかし結局、食べられなかった)。

背後に山をいただいて、弥彦神社は、いかにもそれらしいたたずまい。「それらしい」というのは、そんなに大きすぎもせず、小さすぎもせず、派手すぎでもなく、賑わいもあり、信仰にきちんと支えられて、穏やかな落ち着きに満ちている、という感じである。空が明るくなったかと思うと、次の瞬間雪が舞うという北国の天気には、もう慣れた。本殿にお参りして久しぶりにご朱印を頂いた後、雪と強風が収まったらロープウェイに乗ろうとしばらく待っていたが、どうやら悪天候はしばらく続きそうである。時間はまだ早いけれども、弥彦での次の目的地に移動することにした。

観光地にありがちな、あからさまに少女趣味な小美術館を、普通はパスするところだが、ここにある「ロマンの泉美術館」(http://www.roman-no-izumi.com/)は、19世紀末アール・ヌーヴォーの蔵書票のコレクションを持つ、珍しい美術館。見ないで帰るには惜しいので、駅から20分の道のりをてくてく歩いて、岩室方面へ。主要道から少し外れて、こじんまりとした集落を通り抜け、もうその向こうは冬の田圃だけ、という場所に美術館はある。

かわいらしい建物の扉をあけると、アンティークの家具に囲まれたミュージアム・ショップ。左手が展示スペースで、奥にレストランがあるようだ。企画展は「パリ「ムルロ」工房ポスター展」。目に楽しい20点ばかりのポスターを、写真を撮りながらのんびり眺める。蔵書票は、二階から降りてくる天窓のある階段に沿って展示されている。自分の分身として、こんなに可憐な蔵書票を作らせ、本に挟み込んだ人たちがいたのだ(そして、こういうものを蒐め、ステンドグラスに囲まれた洋館まで建てた伊藤文学という人)。

せっかくなので、奥のレストラン「バイロス館」でお昼も食べていくことにする。ここにもアンティークの家具。荒野に向いた大きな窓。壁にかかる蔵書票。コースも出すというから、結構ちゃんとしたものを食べられるのだろう。今日はつましく、パスタを一皿。「海老のトマトクリームパスタ」、美味しゅうございました。胡椒と唐辛子が効いたソースは、「上品な味」とはいえないかもしれないけれど、ついスプーンですくって食べてしまった。サラダやら海老やら食べていると、普段食っている食材は、なんと作り物めいた味がすることだろう、と思わず考えてしまう。そういう美味しさでした。

おなかも満腹になって、駅に向けて歩き出すと、しまった。空が晴れ始めている。今なら弥彦山頂も晴れているかもしれない。やっぱり奥社にお参りしたい!駅に一本後の電車を問い合わせると、ちょうど1時間後の便があるとのことだったので、朝方とは見違えるような人ごみを縫って、早足でロープウェイ乗り場に向かう。1時間で戻ってこなくてはならないので、あまり時間はない。乗り場で14分待った後、5分かけて山頂駅へ。遠くの雪を抱く山並みも見える。田圃に、大きな雲の陰がまるごと写る。山頂駅から上はさすがに雪が残っていて、徒歩15分と聞いた奥社へ向かって、久しぶりに雪を踏みしめて、可能な限り走る。寒風。青空。左手に田園と山。右手に海。どのくらい昔から、ここは聖地だったことか。奥社の前から、今回訪ね損ねた大河津分水が、陽の光を浴びてきらきら光っているのが見える。次回はきっと。

山頂駅で13分次のロープウェイを待ち、山麓駅まで降りてシャトルバスで神社脇まで戻り、弥彦駅の列車の発車時刻まで、残り12分。これは走らなきゃ間に合わない。朝はのんびり歩いた道をよろよろと走りながら、「いつか、走ろうと思っても走れなくなる日が来るのだろうか」などと考える。きっかり10分で、新潟行き列車の座席におさまった。(01/11更新)