夕方、日本橋に出て雑用2件。高島屋の地下でタイムセールのお弁当を物色し、値段・中身とも手頃なお弁当を発見したので列の2番目に並んでいたら、前のお嬢さんが、残り3個を全て買い取ってしまった。一瞬の出来事。すごすごと列を離れる。主婦には見えなかったから、残業なんだろう。それならそうと、残業向け買出し中のオーラを出しといてほしかった。

このところ、日本橋、東京、銀座あたりに出かけた後は、うちまで歩いて帰ることが多い。今日は素直に永代通りを選んで、ゆっくり時間をかけて永代橋を渡る。下流側で、水の流れが滞ってみえた。自然現象にはあまり興味のない私だが、隅田川や近所の運河で、満干潮にしたがって、川の流れの向きが変わるのを目にすると、その都度新しく心を動かされる。この間読んだ『下り“はつかり"―鮎川哲也短編傑作選〈2〉 (創元推理文庫)』の中に、隅田川の逆流をアリバイに織り込んだ短編が出てきて、「そうそう、これだよ」と嬉しくなった。もう一つ、『アジアフェリーで出かけよう!』で読んだのだが、長江の下流では、本流と支流の合流地点で、黄浦江、長江、東中国海の水の色が互いに混ざり合わず、三色にくっきり分かれる「三挟水現象」が見られるという。神秘的。

ブックオフで『バルバラ異界』4冊を、1冊100円でゲット。ラッキー。ついでに『神童 (1) (Action comics)』も。

バルバラ異界 (1) (flowers comics)』、展開が速くて面白い。ある事件の後、7年間目覚めない少女の夢が、なぜ自分の息子の夢とつながっているのか。眠っている少女、アオバの周りに降り注ぐ花びらや血のしずくは、何を表しているのか。「夢見」を職業とするトキオは、謎を解くため、少女の夢に入っていく。

遺伝子操作、若返り、カニバリズム等の要素が入って、でも基本的なところは『スター・レッド (小学館文庫)』と同じ。夢に現れる未来。火星の滅亡。未来を変えることはできるのか。

現世で息子のキリヤを亡くしたトキオは、死の直前に入り込んだキリヤの思念の中で、アオバと出会う。火星の滅亡阻止のため、何度も未来を作り変えてきたアオバに、トキオは、キリヤを生き返らせてくれと頼む。未来は変えられるけれど、既に起こってしまったキリヤの死をなかったことにはできない」というアオバに、やはりバルバラに住む千里が言う。「全てを誰かの見た夢だったということにすれば、またやりなおせる」と。

面白いと思ったのは、「遺伝子を生き延びさせる」ために全てをかけるアオバとヨハネの意志を、それぞれの登場人物が、意図せずに裏切ろうとするところ。「火星が生まれ変われば、その星の生命体は一つになり、永遠の命を持つようになる」というアオバに、キリヤは「そんな永遠はいらない。オレはオレでいたい」という。実の息子だと思っていたキリヤが、実は妻とヨハネの子であったことを知ってすら、トキオは血のつながらないキリヤの再生を願う。一度は若返りの薬を飲み、再び子どもを産むことを願ったアオバの祖母は、ヨハネの息子の一人を引き取り、「人間はそれぞれの寿命を生きればそれで十分」と諭す。

生命が繋がるということのドラマ。しかし、滅びるのであればそれはそれで構わないような気もする。遺伝子を残せようが残せまいが、愛するものの未来の幸せを願うのは同じだから(そして新たな利害の対立が生まれる)。

トキオがやっと「自分の息子」として愛し始めていたキリヤは、この世からは手の届かない夢の中に去ってしまった。萩尾望都は、喪われた存在を甘く悼むことに関して、その描写は他の追随を許さない。この『バルバラ異界』において、それは、桜の木の下で眠る少年だ。遺伝子を守るための戦いは、半ば喪われた記憶を語るためのものだ。

『神童』については、こんなものかな、と。面白いものを描く人ではある。でもなあ、音楽の天才系の話は、点が辛くなっちゃうんだよな。天才なんだから、もっとわけのわからんものであってほしいと。やっぱり、私の中で『いつもポケットにショパン 1 (集英社文庫(コミック版))』は越えないかな。(06/16更新)