富士山登山(旅行編2日目その1:八合目から頂上へ。そしてお鉢めぐり)

frenchballoon2007-08-07


2日目。といっても昨夜から一睡もしていないので、名目上の区切りにすぎない。とはいえ、夜明けをはさんでゆっくり休んだので、新たな一歩を踏み出す感じはある。心なしか、足も軽い。06:05、八合目標高約3300mの下江戸屋出発。ウィンタージャケットは脱いで、山頂の寒さに備えて、半袖のTシャツ+ウィンドブレーカーに、長袖のインナーを1枚プラスする。

晴天に恵まれ、素晴らしい青空。急に人の姿が増えたような気がする。特に下山者の姿が。山肌に点在する登山者のウェアが、花が咲いたよう。なんだかみんな、夜とは打って変わっておしゃべりだ。夜の間は見かけなかった子供連れの家族もちらほら目に付き、あたり全体かしましい。それでも、自分のペースで登るのに不都合はない範囲。

歩くこと30分、6:40に、須走口最後の山小屋、胸突江戸屋が現れる。標高約3400m。ここは吉田口・河口湖口登山道との合流・分岐点。これまでついぞ目にしなかった数十人単位の団体客と、初めて遭遇。登山道が砂っぽくけむたいので、ここでサングラスを取り出して着用する。このサングラスは10年くらい前に購入したものだが、いまいち恥ずかしくて、外で着用するのはこれが始めて。「サングラスが様になるか否かは鼻の高さによる」という説によれば、私には似合うべくもない(佐藤琢磨のあの、サングラスの似合わなさ加減は、いったい何によるものなのか)。まあ似合わないけど、ここは実用第一。万が一にも知り合いには会わないしさ。

登山者、下山者が入り乱れ、さらに、上る人、休む人で、だんだん登山道は混んでくる。若くても、具合悪そうにへたりこんでいる人がそこここに。ご来光を見たときベンチの隣に座っていた若者がつらそうに座り込んでいたので、熱中飴を分けてあげた。そんなに遠くもない上方に、白い鳥居が見える。「あれが九合目の鳥居だよ。頂上まで1時間」と誰かが話しているのを小耳に挟む。ここまでさほど苦労したという感じがなく、ちょっと騙されているような気も。休みなしで上るのはもはや難しくて、5分登っては休む、という感じではあるのだけれど、不思議と足が軽い。あと半日くらいなら登り続けられそうな気がする。ちょっとした躁状態の自覚も。ひょっとしてこれがクライマーズ・ハイってやつだろうか。

ちゃらい感じのお兄ちゃんたちから「ちーす」「頑張れー」と、次々と声がかかる。この手の子たちって、日頃無縁なんだけどなー。しかもなんでタメ口? 原因は、サングラスくらいしか思いつかない。でも、そんなに簡単に印象変わるものかなあ。自分の外見を、いまいち把握しきれないのであった。

ここらあたりから、段々、へたれ仲間が増えてくる。つまり、体力のレベルが大体同じで、こちらが休んでいる間に向こうが追い越していき、あちらが休むそばをこちらが追い越していく、「あ、さっきも会った人だ」と顔を記憶するようになり、そのうちお互い目礼を返すようになる、そういう仲間たち。「同じ苦労を分け合う」という意味では他の山と同じだけど、「同じ祭りに参加している」感は、富士山独特のものかもしれない。

日中に眺める周囲の風景は、どちらを見ても「こういうのを雄大っていうんだろうなあ」と思わせる大らかな直線に取り巻かれている。稜線のまっすぐ、雲のラインのまっすぐ、遠くの山並みのまっすぐ。心の中の小さく折れ曲がったものが、アイロンがけされて天日に干され、風に翻る心地がする。こんな気分は予想外だった。高いところに登らなければ見えない景色というのは、本当にあるのかもしれないと思った。

標高約3600mの九合目鳥居には、8:00ちょうどに到着。日差しはきついが、涼しいので、さほど体力は消耗していない(はず)。八合目以降は高度計を見なくなっていたので、現在の標高がどのくらいか、実はよくわからない。とりあえず、あそこに見えている山小屋みたいな建物を次の目標に登ればいいんだな、と、だらだら登っていったら、次の鳥居が現れ、その鳥居を越えたら、もうそこが須走口の山頂なのだった。もう一行程あるつもりだったから、ちょっと拍子抜けしてしまった。

9:00ちょうどに、久須志神社の前に立つ。ちゃんと建物があって、中は神社機能完備。ああ不覚。ご朱印帳、持ってくるべきだった。お参りを済ませた後は、あらかじめ書いてあるご朱印をいただく。一枚千円。結構な出費。

ここまできたら、当然お鉢めぐり(http://homepage.mac.com/swampyhatto/swampyrj/fuji/fuji7.html)だ。お鉢めぐりとは、富士山頂の噴火口を一周する周回コースのこと。最高峰の剣ケ峰(3776m)は、この「お鉢」の途中にある。天気が悪ければあきらめざるを得ないらしいが、幸い今日は、晴れて穏やかな天気。「お鉢日和」と名づけたいほどだ。

右回り、左回りの二択のうち、古式に則って?、時計回りを選ぶ。ほぼ平坦なコースのうち唯一の長い登りを、やっぱり「降りる」のではなく「登って」みたい。剣ケ峰以外の7峰は、大変で危険そうなので登らない。

富士山は、火口も当然のように、えらくかっこよかった。やっぱり、火山って素敵だ。さまざまな色の岩石が、火口を縁取る。赤いのが、綺麗だ。眼下には、雲海と樹海と駿河の海が見渡せる。四方を青い天が取り巻く。晴れた日に、これ以上の散歩道があるだろうか。

あちこちで立ち止まっては嘆息していたので、浅間大社奥宮にたどり着いたときは、10:00を回ってしまった。こちらでも、季節限定のご朱印をいただく。ここまで水も830mlしか消費していないし、食欲もないので、山に入ってから費やした現金は、コーヒー+休憩代+トイレ代の1500円のみ。ご朱印代2000円が、結局最大の出費になった。お宮の中に「三回撫でたら何でもかなう」という小槌があって、一応撫でておく。前の人が何十回も撫で回し続けていて、奥様がこちらに恐縮することしきり。

お宮のそばには、有名な富士山頂郵便局も。ここから出したら喜びそうな仕事関係者の顔もちらほら浮かぶ。実際、住所録も抱えてきているのだが、見送り。ここは、民営化後も残るような気がするなあ。

残るは、最高地点剣ケ峰だけ。「馬の背」と呼ばれる急坂は、見た目はなんてことないけれど、登り始めると、足場が滑りやすくて怖い。むしろ、下りでなくてよかった。おっかなびっくりでようやく坂を上り切り、「富士山測候所」の看板の残る測候所跡の階段を上ると、そこが剣ケ峰の山頂である。到着時刻10:45。山頂の石碑の脇に、死んだように眠っている人がいる。辺りには、ここ数時間で見知った顔がいくつか。へたれ仲間の一人を見つけて、写真を撮ってもらった。こちらからも撮って差し上げる。サングラスを外して撮ったら、おばあさんのような顔が写っていてびっくり。自分がおばあさんになった時の顔が、なんとなくわかりました。

測候所の裏手の展望台からの眺めは、頑張った一番のご褒美。正面にうねうねと連なるのは、南アルプスなのかな。実家と友人に、ここから旅先通信。「富士山!楽勝!」と自慢しておく。満ち足りて山頂を後にする。(08/19更新)