雲取山登山(二日目その1)

夢の中で鏡に向かっていたら、後ろに黒い大きな影がぬっと映ったので、吃驚して目が覚めた。闇の中で携帯を見ると、22:59。ってことはまだ11時前。なんだ、2時間しか眠ってないじゃないか。

さっきの影は、人間じゃなくてクマだったような気がする。夕食時に聞いた「熊ががーっと立ち上がって」っていうのが、実はかなりインパクトがあったってことだな。しかし、「がーっと立ち上がった」まではいいとして、そのまま後ろに転がってしまったクマがもしあたしだったら、「う。不覚。後ろに倒れるだなんて、熊族として許されぬ失態」と恥じ入ってしまうかも。と思ったのを、ちょっとその場にはふさわしくない意見として封印したのが夢で再生されたか。

前日も徹夜なのに、眠くない。明かりがないので、携帯電話に内蔵されている「英単語クイズ」に挑戦。これ、英和編の語彙がかなり難しく、masterに到達するのが結構大変なのだ。

携帯の画面が闇の中でちかちかして目が痛いので、今度はシグマリオンを引っ張り出してきて、布団の上で日記を書き始める。シグは久しぶりなので、キーボードの配列をかなり忘れていて、なかなかはかどらない。「計画編」を書き終わったのが、深夜1:00。いくらなんでもそろそろ寝なくては。と、布団の中で寝返りを打ちながら1時間。「どれ、トイレにでも行っておくか。あー、でも丑三つ時だなあ」とヘッドランプを手にそろそろと起き出し、引き戸を開けて外に出てみると、目の前に大きな黒い影が...。

鹿でした。その距離2メートル。これまでで一番の接近遭遇。食べ物をあさりに来たか。どうせなら、温泉に入ってみせるくらいしてほしかった(露天ないから無理だけど)。数秒見合った後、彼女は山へ帰っていった。

やっと眠くなったのはもう3時も回った後で、うつらうつらしたと思ったら、布団の中に入れておいた携帯が4時のアラームを鳴らし始めた。4時から4時5分まで存外に長い惰眠を貪った後、起き出す。電気がないというのは結構不便で、着替えをしておにぎりを食べ、水を飲み、荷物と布団を片付けるというそれだけのことがとても時間がかかる。しかも結構音が響くので、隣の部屋の人はうるさかったかも。すみません。4時半に出発予定が、5時をちょっと回ってしまった。靴を履いて外に出ると、早起きさんが数人。しかし、彼らはただ起きてきただけのようで、出発する様子はない。6時からの朝食を食べてから出るのだろう。

夜明けまでさほど時間はないはずなのに、暗い。でも出発である。

今日の行程は、このまま雲取山の頂上を目指し、雲取山荘、白岩山、前白岩山、霧藻ヶ峰を経て三峰神社へ至る15kmコース。三条の湯から雲取山までの高低差はおよそ900m。富士の須走口コースが、距離約14km、高低差約1800m。高低差は半分だが、距離は似たようなもの。そして、尾根伝いの縦走なので、何度かアップダウンがあるはずだ。登山というより、今日の目的はむしろ体力測定だ。

三峰ロープウェイが廃止されてしまったので、三峰神社から下界への公共交通機関はバスのみ。最終は16:45。これを逃すと、タクシーで三峰口まで7000円払うか、三峰神社の宿坊に1万円払って泊まるか、夜道を延々歩いて下るか、という3択が待ち構えている。今日に限っては、時計をこまめにチェックしながらの登山になる。ちなみに、コースタイムの設定に当たって参考にしたのは、この方たちの記録。どこを登っても、標準コースタイムの1.5倍から2倍の時間がかかる私が、無事夕方までに三峰神社までたどり着けるかどうか。

そして、今日は恐らく雨が降るはず。昨日確認した限りでは、今日の天気は曇り。降水確率40%。平地は降らなくても、山は降るだろう。それをわかっていて今日を選んだのは、炎天下でこのルートを歩き通す自信がなかったからだ。眺めを犠牲にして涼しさを優先した。降らないで1日保ってくれればそれに越したことはない。たとえ降られても、この高度なら、歩いている分には寒さは感じないだろう。

今のところ、まだ雨が降る気配はない。鹿が渡っていった山への小さな橋を越えて、ヘッドランプを片手に、覚束ない一歩を踏み出した。(09/27更新)