相模六社めぐり

8月以来車を運転していなかったので、遠出の予定はないが、ドライブすることにした。マツダレンタカーが10月一杯、「デミオ1日4,000円キャンペーン(免責保証料込み)」というのをやっていたのをずっと気にはかけつつ、申し込んだのは例によって最終日ぎりぎり。聞けばガソリンも明日から値上げだというし、いいタイミングだったのかもしれない。

今日の目的地は、秦野から小田原あたり。昨年からだらだら続けている「坂東三十三観音」めぐりの一環である。といっても、札所以外のあれこれを見て回るのに時間を取られて、さっぱり先に進まない。先週やっと鎌倉(含江ノ島&藤沢)に一応の決着をつけ、次の目的地は小田原で、でも相模一の宮寒川神社だけは行っておきたいと思ってネットで見ていたら、「相模国府祭(こうのまち)六社めぐり」という楽しそうなイベントを発見。「相模国府祭」とは「毎年5月5日、相模国一之宮寒川神社・二之宮川匂神社・三之宮比々多神社・四之宮前鳥神社・平塚八幡宮・総社六所神社が大磯の斎場に集まり、国家安泰・五穀豊穣・諸産業の反映を祈念する相模国最大の祭典」なのだそう(パンフレットより)。さらに「国府祭のように国司による行事は、古くは全国的に行われていたものですが、相模の国のようにほぼ完全な形で継承されているものはきわめて稀で、大変貴重な祭典となっております」ともある。大磯の神揃山での神事は季節が違うので見られないが、この6社を巡るだけでも楽しそうである。

下調べをしていて気づいたのだが、各社の所在地の近辺では、「宮山」「二之宮町」「三ノ宮」「四之宮」「国府本郷」等々、それぞれの神社に由来する地名や駅名が冠せられている。「国府祭」自体が、それぞれの地域の有力豪族の合議を模しているというし、各神社の周辺には、古墳が多く見られるという。そんなに古くからの伝統と信仰が形を残しているというのがすてきだ。

ということで、まずはレンタカーを予約している本厚木へ。小田急線の町田以西、東海道線の藤沢以西は、列車や車で通過するばかりの「未踏の地」であったが、どうやら少しずつ地理が頭に入ってきつつある。11時に本厚木到着。初めてお世話になるマツダレンタカーでレンタル手続き。最初に出てきたデミオのカーナビが不調で、次のデミオを待つことしばし。色が変わって今度はシルバー。車内はきわめてオーソドックス。ただ、車の特性か整備のせいかはわからないけれども、なんだかもっさりした乗り心地。アクセルの効きが遅い。ま、今日は下道平均60キロ運転だからかまわないけど。

129号を快適に南下し、神川橋を渡って相模川を越え、まずは寒川神社へ。すぐに神社の駐車場が見つかる。空きスペースも十分。幸先が良い。寒川神社は、さすがに一之宮の立派な佇まい。折しも七五三の季節で、子供連れのご夫婦がたくさん。広くゆったりとした本殿が青い空に映える。八方除で有名とのことだが、型通りにお参りして、ご朱印をいただく。

次は四之宮の前鳥神社へ。神川橋を再び渡り、再び129号へ戻ってさらに南下する。「目的地周辺」まではすぐにたどり着いたが、それらしい建物になかなか行き合わない。嫌な感じで細道に入り込み、幅が狭いので一通かとひやひやしながら運転していると、案外どちらの方向からも車が走ってくる。こんなものかと、例によって細道では頼りにならないカーナビの音声を聞き流しつつ走っていると...。そこそこ交通量のある道路に戻り、カーナビが「右折してください」というのを信じて曲がろうとすると、後ろから強烈なクラクションが。「何やってんだ! ここ、右には曲がれねーぞ!」と怒声が飛んでくる。確かに、左折しかできない作りである。正気で考えれば一瞬でわかるのだが...。確信がないとき、耳からの命令は大きいということか。バックして方向転換し、またしても129号へ。距離が近いとはいえ、なんでまた神川橋まで戻っちゃうかなあ。細道を行きつ戻りつして、やっと前鳥神社に到着。小さいながら結婚式場も備えた活気のある神社だった。

相模川周辺の最後の目的地は、平塚八幡宮。こちらは、平塚駅側の大きな通りに面していて、場所自体はすぐに見つかる。しかし、駐車場を見つけきれない。ぐるりと敷地を回ってみると公共の施設が結構あって、駐車料金を払うつもりになれば、どこにでも入れる。「でも、無料で済ませたいなあ」というケチな心性がたたって、なんだか市街地からどんどん離れていくようである。えーと「四之宮」って...さっきの前鳥神社のあったとこじゃん。あきらめてコンビニにいったん車を入れ、目的地を「平塚市美術館」(http://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/art-muse/)に変更。

実は、今日の予定には美術館で「絵で読む宮沢賢治展−賢治と絵本原画の世界」を見ることも含まれている。たまたま『セロ弾きのゴーシュの音楽論』を読み始めたところ、先週ニュースでこの展覧会のことを知り、タイミングが良いので見ることにしたのだ。美術館の駐車場に無事車を入れ、会場へ。平日の地方美術館なのに、人がいっぱい。老人率高し。会場は、賢治の自筆原稿が展示されたスペースと、賢治の絵本の原画が展示されたスペースに分かれている。賢治の字は大きかった。普通の人の書く文字を四倍に拡大したくらいの大きさ。意表。自筆だから有難い、という感慨はあまり覚えないほうだが、下手くそなチェロを弾いていたゴーシュが生み出された原稿だと思うと、ちょっと感涙。『雨ニモ負ケズ』の記された手帳の原本は、一列に並んで順番を待って鑑賞。小さな手帳に例によって大きな文字で書いているので、不経済なこときわまりなし(笑)であった。原画展のほうは、つらつら眺めながら、宮沢賢治という人は、挿絵を描く人たちにとってもまた特別な存在であっただろう、と思った。なつかしい東逸子の『銀河鉄道の夜』が、いかにもそれらしくて良かった。内田善美が描いていたらどんなだっただろう、とちらっと連想した。

美術館から平塚八幡宮まではほんのそばなので、そのままお参りに行った。街中にあるせいか、あまり神域という感じはしなかった。そろそろお腹がぺこぺこだが、食べている時間がない。次に急ぐ。久しぶりの運転で緊張したせいか、少し肩こりと頭痛の気配がある。

次の目的地は大磯方面だが、坂東三十三観音を一筆書きで回りたいので、江ノ島の龍口寺まで、いったん戻ることにする。時間と燃料の無駄ではある。海沿いの134号に出て、ひたすら東へ。延々と松林が続き、海岸線がたまにちらっと見える。湘南ど真ん中? 龍口寺前を通り抜け、江ノ電の線路を踏んで走った後、小動から134号に戻る。このあたりを通るのは4度目。多分見納め。晩秋の海ってのもロマンチックでしょうね、と思いながら、134号線から1号線へ。大磯を通り過ぎ、今度は首尾よく「六社神社入口」の信号を発見して六所神社へ。しかし、東海道線をくぐるトンネルが、えらく狭い。もちろん1車線。入り口にミラーが設置されているところを見ると、あちらからも車が来る可能性があるのである。うう、怖い。トンネルを越えると、そこが六所神社であった。清浄な雰囲気。結界が保たれている。それでいて親密な空気が漂っている。いい場所だと思った。

時刻は4時過ぎ。次の目的地まで5キロないくらいなので、余裕で到着、のつもりが、またしても迷う。先だって通った狭いトンネルを通るのが嫌で、元の道へ戻らず適当に走ってみたところ、道はいよいよ狭くなる一方、行けども行けども、まともな広さの道が現れない。生垣をこすって通るのが常態と思われる路地を右往左往した挙句、やっぱり行き止まりになって、そのお宅の家人に指示してもらいながらやっとのことで脱出。二之宮の川匂神社に到着したのは、もう5時を回った頃だった。この神社もまた聖域の気配のある場所に位置し、薄闇の中で、ますます清清しい雰囲気。

あー、でも、ここまでは今日のうちにご朱印を貰っておきたかったなあ。ここを終わらせておけば、次は区切りよく小田原から始められたのだが...。次の行程を、車にするか電車にするか迷うところだ。

帰りの目的地を、駅のそばのガソリンスタンドに設定するくらいの知恵はついて、多少混んだ1号線と129号線を通って帰路につく。本厚木到着は6時半くらいだった。走行距離は120キロくらい。ガソリン代は8.50@141で1,198円。時間通りに無事返車。無事故につき500円券を貰う。1日3,500円はお得でした。でもかなり疲れた。やっぱり1月に1度は乗ったほうがいいなあ。

駅前のネットカフェでちょっと仕事して(なんか、知らないところに行くと必ずネットカフェをチェックしてるな)、水曜なので直帰せず近所の映画館に行ってみたら、もう『グッド・シェパード』の最終回は始まった後だった。明日に延期。疲れている割りに、遊び足りない。