またしてもフルートとワイン

忙しいんだけど、午後から楽天リサーチの無料カンファレンス。マーケティングの人たちってどんななんだろう、と思って。せめてマーケティング寄りのリサーチに軸足をうつせば、少しは稼ぎやすいかなあ、とか漠然と考えつつ、でも興味ないんだよなあ、と長年ほったらかしで来たところに、メルマガか何かでお知らせが来たので、たらたらと出かけた次第。お天気も良かったしね。

青物横丁で降りて、庶民的な感じの商店街(京急沿線って、なんだか懐かしい感じがするよね)を海のほうへ向かい、典型的な再開発地域といった感じの品川シーサイド楽天タワーへ。列に並んで、いかにも若いお嬢さんたちに受け付けてもらう。客も若い人が多い。やや居心地悪し。生三木谷は見られず、佐藤可士和氏の基調講演。ユニクロの、ニューヨーク出店を中心としたグローバル戦略について。ユニクロの柳井氏から佐藤氏に連絡があったのは、出店も人気も一段落して、「フォーカスが甘くなっていた」2002年。当初は真っ赤だったロゴが「陽にあせてしまったかのような、日本的なエンジ色にいつのまにか変わっていた」。そういうところに目が行くのが、やっぱりデザインの人だなあ、と感心。
「日本のCMを頼まれるのは嫌だなあ」と思っていた佐藤氏に柳井氏は「世界戦略を始動させるので、そのトータルディレクションを頼みたい。20年後に生き残っているためには、グローバル企業にならなくては」と口説いたとのこと。ユニクロという企業は、普通のファッション・ブランドとは性格が異なっていて、服を優秀な部品の一つとみなしているところがある。メイドインジャパンの優秀なパーツを揃えた「東急ハンズ」の洋服版だと。そこで、佐藤氏は「美意識のある超合理性」というコンセプトを打ち出す。
ニューヨークで使用するロゴを考えるにあたっても、根本の書体から「システムの一種」として考え、文字の太さを全く同じにしてわざと強弱・ニュアンスを排した「デジタルの極致」的な書体を用意。ロゴで企業イメージを表現すると同時に、ニューヨークだけで30はあるという価格訴求型ブランド(「H&M」とか「GAP」とか)の中からユニクロを選んでもらうためには、価格戦略だけでは通用しないと踏んで、「どこの国から来た何者なのか」をはっきりさせるために、「日本」という出自が一目でわかるカタカナと英語の両方の表記を採用。外国人の好きな「クール・ジャパン」にも目配りして、扇子をインビテーション・カード代わりにしたり、永井豪森山大道らとコラボしたTシャツを企画したり。街そのものを巻き込んだキャンペーンは大当たり、商業的にも成功を収めたとのことだった。
切れ者」というイメージを抱いていた佐藤可士和さんは、意外にも話しぶりは普通の人だった。斬新な比喩が飛び出すわけでもなく、割とゆっくり目の語り口なので、メモが取りやすかった。「売りたいなら、どこのどいつかはっきりさせる」というのは覚えておこうと思った。
その後の分科会は、1コマ15分の短いもので、楽天リサーチのリサーチ、アンケート関連サービスの売込みが中心。600万の楽天市場ユーザーをバックに、どんなモニターもご用意できます。新しい支援ツールも完成間近。ってことでした。懇親会も出るつもりだったけど、今週は疲れ気味だったので出ずに会場を後にする。おみやげは時計と革製マウスパッド。やっぱり、物を売ること自体には、あまり興味ないかも。広告よりは広報のほうが面白いと思うほうだし。

青物横丁まで取って返して次は六本木へ。ウェンディーズで腹ごしらえして(すっごく久しぶりに入ったら、ハンバーガーもコーヒーも美味しくなってて驚いた)、「鴻巣友季子 × 奥泉光 の文芸ビックリ箱 翻訳と小説をめぐって」@青山ブックセンター奥泉光は、何かあったときの私の頼みの綱(読書上のってことね)の一人。わざと全作は読まずに取ってある。小説も好きだけど、『文芸漫談 笑うブンガク入門』は目から鱗だった記憶が。鴻巣さんより一足先に現れた奥泉さんが、嬉しいことに、まずフルートの即興演奏。サプライズがもう一つあって、鴻巣さんの新刊『カーヴの隅の本棚』にちなんで、グラスワインのサービスがあるという。白は鴻巣さん、赤は奥泉さんから直々にサーブしていただき、本編が始まる前から既に満足。4本のワインは、瓶にアルミ箔がかけられていて、対談の冒頭、鴻巣さんが観客に、自分が手にしたワインの感想を尋ねてゆく。「ブラインド・テイスティング」というそうだ。最初の人の回答も堂に入っていて「カベルネ・ソーヴィニヨンでしょうか?」なんて答えるんだからすごい。
鴻巣さんの新刊は、文学とワインについてのエッセイ集なのだそうで、しかも、一編の中で必ず「文学」と「ワイン」の両方について語っているのだそうだ。「よくもまあ、毎回その二つを結びつけられましたね。その強引さは、小説的である」というようなところから始まって、翻訳家から作家になる人が多いという話(「狭間を体験しないと小説は書けない」「常に違和感を持つ」「日本語を外国語のように扱う」「言葉を物として捉える」)、嘘臭い近代の「三人称多元」から日本の小説はどこに向かったか、そして奥泉さんの三人称多元小説修行に至るまで終始、言葉を動かし、生かし、絶妙な場所に留め置き、均しすぎてはならず、と言葉扱い心得は続き、なるほどお二人の話を聞いていると、酔いも手伝って、言葉は形を持ったり流れたり漂ったりするのだった。最後に、鴻巣さんが翻訳中のヴァージニア・ウルフを朗読し、奥泉さんがフルートで音楽を担当。贅沢な1時間が終了。奥泉さん、来年早々に新刊が出るそう。サインはそのときにもらうことにしました。来月にはフルートのライブもあるそうなので、行けたら行こうっと(「アケタの店http://www.aketa.org/schedule.html)。

結局昨夜のうちに読んでしまった『新世界より (下)』。『ポドロ島 (KAWADE MYSTERY)』の表題作が、まさに「異種であれば殺す禁忌は無い」という話だったような...。ABCで見た『ドリーミング・オブ・ホーム&マザー』の帯に、伊坂幸太郎の推薦が載っていて、伊坂さんも読むんだ!と嬉しくなった。あの帯がついた版、やっぱり欲しいかも。