フィギュアスケート グランプリファイナル 男女シングルフリー

トリプルアクセル2回も一つの歴史なら、日韓二人の舞姫の競演も、多分歴史に残る名勝負。優勝した浅田真央も敗れたキム・ヨナも、ミスまで含めて素晴らしい演技だったと思う。二人とも「勝ちたい」と心から望んでいただろう。しかし、お互いのレベルがあまりに高すぎて、お互いを超えるには、「勝負」という次元とは別の高みまで到達せざるを得なかった、そんな感じだ。全身全霊こめて、自分の演技をすること。それ以外は脳裏になさそうな二人に、見ているこちらも勝負を忘れました。

プレッシャーがかかった分、若干キム・ヨナ嬢に不利だったかな。真央ちゃん、今日こそは、キム・ヨナの呪縛から解放されたことだろう。あの、表現力の怪物を相手にするのは、どれだけしんどかったことか。でも、もう大丈夫。音楽の化身に成り変って滑るキム・ヨナと、情緒に流れずストイックなまでに身体を保持する浅田真央と。どちらも美しい。あと数年、競い合うあの二人を見られるとは、なんとラッキーな。しかし改めて、同じ歳の、同じだけの才能をアジアの両岸に配置した天の配慮を思う(少し大げさだけど)。生半な恋愛では全く太刀打ちのできなさそうな深い縁だ。

女子に比べて、スターがごっそり引退・故障していた男子のグランプリファイナル。鬼のいぬ間とはいえ、とりあえず、小塚崇彦君、初ファイナルにして準優勝おめでとう。まだ「決められたプログラムを上手に滑る」以上気が回らない感じだけど、まあ彼の場合、それも一つの個性かなと。闘志や自己主張は後天的に獲得できるわけで、「性格の良さ」や「育ちの良さ」を元々備えているってことが素晴らしい。「ただ単に滑っている」だけの姿もだんだんさまになってきた。今後も素直に伸びてください。

引退といえば、ランビエールだけじゃなくて、ジェフリー・バトルも引退してたのね。「君、ゆっくり滑るってできないのかい」って感じのパトリック・チャンは、彼の後釜だったのか。カナダといえば、わんぱく小僧みたいな顔つきのケヴィン・レイノルズも可愛い。そういえば、エマニュエル・サンデュ、何してるのかなあ。どこかでまた会えるのかしら。ブライアン・オーサーみたいに。

フィギュアスケートの話はここまでで、今日出会ったもう一つの才能は、チェロの伊東裕君。たまたま「日本音楽コンクール」(http://oncon.mainichi-classic.jp/result2.shtml)をお昼に見てて、彼の奏でるチェロの音を聴いた瞬間に、惚れてしまった。天上の音。聖フランチェスコの説教と同じで、野の獣でも、この音には聞きほれるに違いない。2位の伊藤悠貴君も、良かった。伊東君が、音楽のためだけに生きている感じなのに対して、伊藤君は、もう少し、世界に対して開いている感じがあって(多分年齢のせいもある)、それはそれで魅力的だった。3位の長谷川彰子さんは、いろいろ咀嚼するのに時間がかかりそうで、それがまた誠実な音につながっているかな、と思った。

ヴァイオリンは、見事に女性ばかり。素敵な演奏だったけど、ヴァイオリンで素敵な演奏する女性、多いからなあ。見損ねたピアノ部門を除くと、やっぱり、チェロの二人がとっても良かった。素人の耳にも確かに届く音、見紛うことのない才能が、ある。新しくて美しいものを堪能した一日になった。