静岡から糸魚川まで(二日目その2)

ここからいよいよ梅ケ島林道が始まる。雨は小雨に変わっている。午後からは晴れる方向だと、天気予報でも言ってたっけ。「20キロ走行」と説明があったので、どんな道が現れるのかどきどきしていたら、拍子抜けするくらいまともな道だった。舗装もされているし、道幅もそこそこ広い。もちろん2台ですれ違うには狭い箇所もあるけれど、徐行するなり譲り合うなりすれば、さほど苦労することもなさそうだ。お天気がいまいちのせいか、ごく始めのあたりで1台すれ違った以外、全然車は通らない。年間何台も転落すると書いてあったのは、この林道だったか、今日もう一つチャレンジする予定の丸山林道のほうだったか。

いつも不思議に思うのは、「カーブを曲がりきれなくて」という事故の話。スピードを落とせばすむことなのにそれをしないのは、なぜなんだろう。判断ミスなのか、ぼんやりしていたのか、それとも怖いと思わなかったのか。怖いと思わないって、どういうことなんだろう。がしかし、スピードに関しては人一倍恐怖心が強い私も、好奇心が募ると「行ってしまう」ところがある。人によっては、私が今ここを走っていることに恐怖を感じるかもしれない、かな。

安倍峠というからには、どこかに峠があるんだろうと標示に気をつけていたのだが、どうやら見落としてしまったらしい。下りに入ったあたりの広い駐車場で、逃げ腰でこちらを見ている鹿の親子を発見。写真に収めようとしている間に、木立の中に消えてしまった。残念。


道路の脇は切り立った崖=絶景ポイントと思しき箇所を、何度も通り過ぎる。この辺りからの秀麗な富士山の姿が、ウェブ上にはたくさんアップされている。眺めの良い日は、たくさんの写真家で混雑するらしい。がしかし、今日は眺めとは無縁。空は明るいが霧が発生していて、視界は20メートルもないくらい。小さめの落石が結構散乱しているので、よけて通るのが面白い。これができるのに、なんで昨日は立体駐車場に入れなかったかなー、などと考えていたら、この日2台目の対向車が現れて、運転席のおしゃれなおじさんから睨まれた。ミラーのないカーブの出会い頭で、双方ともスピードは出ていなかったから、無事停まってすれ違っただけなのに、なんで睨むかな。下る側の配慮を何か怠ったってことなのかしら。落石が真ん中に固まってるから真ん中を走っていたのがダメ? 耳をすませて対向車にとっとと気づけよってこと? ゆっくり停まって余裕ですれ違ったんだけどなあ。

最近の梅ケ島林道の感じは、日付の近いこの方のページが参考になるかも。身延側からの記録です。

ここから早川町に入るまでの、身延の写真は無し。そういえば、初めて「感応式信号」というのと遭遇した。信号が赤だったので停まって待っていたら、いつまでたっても青にならない。割とすぐに後続の車がやってきて、バックミラー越しに運転手さんに指示を仰ぐと、優しそうなお姉さんが両手で「行け行け」の合図。うーむ、車両を感応するための停止線に、きちっと停まれなかったのか。定位置に止まれない女。

身延山のすぐ側を通るつもりでいたのに、通り過ぎてしまった。カーナビ様は「ちょっとくらいの遠回りですむなら、楽しい場所を通りたい」という希望は叶えてくれない。右手にはいつのまにか富士川が。昨夜以来の再会である。

富士川街道には早々と別れを告げ、南アルプス公園線に入る。早川の流れにそって切り開かれた道を、延々と登っていく。電光掲示板に「上流雨量1ミリ、連続雨量7ミリで通行禁止」の表示。林道の規制ばかり気にしていたけれど、この道路自体が、山間の、自然状況に左右されやすい道なのだ。雨が上がりつつあるのは本当に幸い。数年前に七面山から下山したときに、七面山温泉のバス停からバスに乗った。その辺りに差し掛かると、少し記憶に響くところがある。やがて早川町役場を通り過ぎる。

数台の乗用車と数台のトラックが、数少ない道連れ。トラックには何度か、道を譲ってもらった。小之島トンネルを抜けたところで、目的地の一つ「新倉断層P」の看板が現れた。産地直売所、くらいのつつましさ。砂利敷きの駐車場に車を停めて、小道を下ること5分ほどで、内河内川をまたぐ橋に出る。川の右手奥に、素人目にもはっきりわかる、二つの地層が成す断層線が。

左側の地層が右側に乗り上げている逆断層で、右側の新しい地層でも形成されたのは数千万年前にさかのぼるという(大雑把な説明ですみません。詳しいことは下記の説明をお読みください)。空のお星様を見るのと同じくらい実感のわかない話だが、星は手が届かないけれど、地層はそこにある。そしてこの断層が、日本を地層的に東と西に分断する境界なのだ。どこででも見られるというわけではないから、国指定の天然記念物である。

眺める以外のことは考えつかなかったので、河原に下りることもなく引き返し、奈良田に向けて再出発。途中いくつもトンネルを通り抜けた。中にめちゃくちゃ怖いトンネルが一つあって、帰ってから調べたところによると、「青崖トンネル」というらしい。結構件数が引っかかるのは通り抜けた観光客によるものではなく、このトンネルの工事を請け負った業者が、期日までに工事を終わらせられなかったというもの。たまたま前を走っていたトラックについてこのトンネルに入ったところ、中は一車線しかなく、橙色の照明は、むしろ暗さを際立たせるだけ。おばけが、とかいう前に、とにかく怖いのだった。このときほど、前に車がいたことを有り難く思ったことはない。

西山温泉を抜けて奈良田到着は13:30頃。西山温泉を抜け、ダム湖の奈良田湖を通ったはずなのだが、記憶がない。水のない広々とした早川の河原は写っているが。

奈良田の里温泉と民俗資料館兼用の駐車場には、思いの他車が停まっている。これも後で知ったところによると、どうやら評判の温泉らしい。「あのトンネルを抜けてこんなところまで!」と変なところに感心する。温泉には興味がないので、民俗資料館を目指して奈良田の集落の阪を上っていくと、風情のある神社があった。奈良法王神社。この地にゆかりの深い孝謙天皇(別に奈良法王(位不詳)なりとも言う)を祭る。

民俗資料館の建物に回ると、入館料は温泉で購入してくださいとのことなので、敷地を通って温泉の建物に戻る。お昼でも食べようかと思ったら、お昼休み中。あまり感じのよくない観光客がたくさんいて、なんとなく気がそがれて敷地を出てしまった。虚空蔵神社があったので、こちらもお参りする。尼畑湖のあたりは硯石を産出するとあったが、このあたりは何が出たのだろう。どうもぼんやりしていて、民俗資料館に寄り損ねたのを思い出したのは、丸山林道に入ってからであった。